共認心理学:現代の精神病理
357053 マネジャーは「指示を出される側の苦痛」を知らなければならない。
 
別所彦次郎 20/05/22 PM07 【印刷用へ
リンクより引用
***

人間は本能として「コントロールする能力」を失うと、生きる力を失う。

ハーバード大の社会心理学教授、ダニエル・ギルバートは次のように述べた。

人間はコントロールへの情熱を持ってこの世に生まれ、持ったままこの世から去っていく。
生まれてから去るまでの間にコントロールする能力を失うと、惨めな気分になり、途方に暮れ、絶望し、陰鬱になることがわかっている。死んでしまうことさえある。


そして、彼はそれを実証したこんな研究に触れている。

地域の老人ホームの入所者に観葉植物を配った。

・半数の入所者には自分で植物の手入れと水やりを管理するように伝える(コントロールする能力を与えられた側、高コントロール群)

・後の入所者には職員が植物を世話すると伝える(コントロール能力を奪われた側、低コントロール群)

6ヶ月後、後者では30%の入所者が死亡していたのに対して、前者では死亡はわずか15%だった。

さらに、追試研究によって、コントロール能力が老人ホーム入所者の福利にいかに重要であるかが確かめられたが、同時に予期せぬ不幸な結果も招いた。

学生を雇って、入所者を定期的に訪問させた。

・高コントロール群の入所者には、訪問してほしい日時を自分で決めさせた。
・低コントロール群の入所者には、日時を決める自由はなかった。

2ヶ月後、高コントロール群の入所者は低コントロール群の入所者より幸せで、健康で、活動的で、薬の服用量が少なかった。

ところがこの研究が終了し、学生の訪問が終わった数ヶ月後、高コントロール群の入居者の死亡が極端に増えた。

研究者たちは愕然とした。

原因はあきらかだった。高コントロール群の入居者は、研究が終わった瞬間、コントロール能力を取り上げられてしまったからだった。

コントロールを得ることは、健康や幸福にプラスに働くが、コントロールを無くすのは、はじめから持っていないよりも深刻な事態を招きうる。

電通で自殺した女性は、ある意味「何もかも自分でコントロールできる人生」を歩んできたはずだ。

容姿に恵まれ、学歴に恵まれ、そして就職も電通、人生は「ある程度コントロールできる状態」だっただろう。

だが、その「人生のコントロール能力」は一瞬にして奪われた。会社の中では、何もかもが予測不能で、自分の裁量はほとんどない。

彼女は深い絶望に襲われたのだろうと思う。

マネジャーは「指示を出される側の苦痛」を知らなければならない。

裁量のない仕事、それは時として、マネジャーが想像するよりも、遥かに大きな精神的苦痛なのだ。
 
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