世界各国の状況
357022 薄利多売のビジネスではもたない
 
匿名希望 20/05/21 PM08 【印刷用へ
リンク

こうした非常時には、国家のエゴが丸出しになるというのが厳しい現実である。ドイツ政府はウイルスの感染拡大に対処するため、医療用マスク、手袋、防護服などの輸出を禁止する措置を実施。米国などが猛反発したことから、一部は解除されたが、各国は必要に応じてこうした措置を講じてくるだろう。

マスクに用いる不織布は中国が圧倒的なシェアだが、ドイツも高い輸出シェアを確保している。一方、日本はマスクのほとんどを輸入しており、国際市場での競争力はない。マスクだけでなく防護服やフェイスシールド、人工呼吸器など、医療器具の多くを輸入に頼っており、中国をはじめとする諸外国からの輸入がストップした場合には深刻な状況に陥る。

 アルコール不足も深刻である。消毒用アルコールの原料はほぼすべてを輸入に頼っており、しかも日本には大型ケミカルタンカーが接岸できる利便性の高い港湾が少ないため、最新設備が整っている韓国を中継地点として輸入するケースが多い。つまり韓国から日本への輸送が止まれば、日本はアルコールの調達が難しくなる。

 肺炎患者の最後の拠り所となる人工呼吸器のメーカーは、中国や米国、ドイツなどが中心で、日本で使われている装置の多くは輸入品である。世界は人工呼吸器の争奪戦となっており、生産能力を持たない国が数量を確保するのは困難だろう。

 こうした事態を受けて、国内では「外国依存を脱却せよ」「国内の生産体制を強化せよ」という勇ましい声が聞かれる。重要な物資について国内調達できるよう体制を構築すべきだというのは、まさに正論であり、異論を挟む余地はない。

 だが最大の問題は、なぜこうした措置が今まで実現できなかったのかという部分である。

 重要な物資を海外に依存していた場合、非常時に深刻な事態に陥ることについて予想できないほど日本人は知能が低いのだろうか。そんなことはないはずだ。十分に予見できていながら、こうした体制を構築できていなかったことには相応の理由があると考えるべきであり、逆に言えば、この部分を改善できなければ、いくら声高に叫んでも状況は良くならない。

ドイツが自国で物資を調達できる理由
 多くの日本人にとって聞きたくない話かもしれないが、ドイツが重要物資を自国で調達できて、同じくモノ作りで国を成り立たせてきた日本において、同じことが実現できないのは、経済力に大きな格差が生じているからである。もっと具体的に言うと、日本企業の生産性があまりにも低すぎるので、余裕のある生産・調達体制を構築できず、これが非常時における社会の脆弱性につながっている。

企業の生産性の話をすると、「また生産性の話か」「もう聞き飽きた」「何でも海外と比較すればよいというものではない」といった意見が山ほど出てくる。ハッキリ言おう。日本が(先進諸外国と比較して)劣位にあるという現実から目を背け、競争を忌避するこうした価値観こそが、日本の生産力を低下させ、社会を脆弱にしているのだ。

 ドイツの労働生産性(時間あたり)は72.9ドルと日本の1.6倍もある。たかが1.6倍などとは考えないでほしい。同じ人間が同じように働いて、先方は1.6倍もの富を稼ぎ出しているわけだが、この格差はマクロ経済的に見ると尋常なレベルではない。分かりやすくたとえるなら、同じ工業国でありながら1.6倍も生産性が違うというのは、中間層と富裕層くらいの違いがあると思ってよい。

 この手の話をすると、物価が異なるので比較するのは無意味という意見がほぼ100%出てくるが、生産性の数値は購買力平価を用いたものなので、当然のことながら物価の違いは考慮されている。物価が違うので比較できないという話は当てはまらない。

 ドイツの工業は基本的にすべてが高付加価値分野となっているが、日本は一部の企業を除き、依然として薄利多売のビジネスを続けており、中国など賃金が安い国とコスト勝負する結果になっている。

 もし日本メーカーの高付加価値シフトが進んでいれば、医療機器や医療器具といった分野においても、価格の高い製品にシフトすることで生産体制を維持できる。高い付加価値の製品を作っていた企業が製品のスペックを落とすことは簡単なので、非常事態の際には、その生産力を一般的なマスク生産に振り向けるもできるだろう。
 
  List
  この記事は 211321 への返信です。
  この記事に対するトラックバックURL  http://www.rui.jp/tb/tb.php/msg_357022
  ※トラックバックは承認制となっています。

[過去の記事へ]
[一覧へ戻る] [新しい記事へ]


◆実現論本文を公開しています。
 実現論 : 序  文
 第一部 : 前  史
 第二部 : 私権時代
 第三部 : 市場時代
 第四部 : 場の転換
 参考文献

 必読記事一覧
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28
大転換期の予感と事実の追求
実現論の形成過程
自考のススメ1.未知なる世界への収束と自考(1)
自考のススメ1.未知なる世界への収束と自考(2)
自考のススメ1.未知なる世界への収束と自考(3)
自考のススメ1.未知なる世界への収束と自考(4)
自考のススメ2.現代の不整合な世界(問題事象)(1)
自考のススメ2.現代の不整合な世界(問題事象)(2)
自考のススメ2.現代の不整合な世界(問題事象)(3)
自考のススメ3.自考力の時代⇒「少年よ、大志を抱け」(1)
自考のススメ3.自考力の時代⇒「少年よ、大志を抱け」(2)
1.これから生き残る企業に求められる能力は?
2.私権圧力と過剰刺激が物欲を肥大させた
3.市場の縮小と根源回帰の大潮流
4.共認回帰による活力の再生→共認収束の大潮流
5.自我と遊びを終息させた’02年の収束不全
6.同類探索の引力が、期応収束を課題収束に上昇させた
7.情報中毒による追求力の異常な低下とその突破口
8.大衆支配のための観念と、観念支配による滅亡の危機
9.新理論が登場してこない理由1 近代観念は共認収束に蓋をする閉塞の元凶となった
10.新理論が登場してこない理由2 専門家は根本追求に向かえない
11.学校教育とマスコミによる徹底した観念支配と、その突破口(否定の論理から実現の論理への転換)
12.理論収束の実現基盤と突破口(必要なのは、実現構造を読み解く史的実現論)
近代思想が招いた市場社会の崩壊の危機
新理論を生み出すのは、専門家ではない普通の生産者
現実に社会を動かしてきた中核勢力
私権時代から共認時代への大転換
市民運動という騙し(社会運動が社会を変えられなかった理由)
民主主義という騙し:民主主義は自我の暴走装置である
統合階級の暴走で失われた40年
大衆に逆行して、偽ニッチの罠に嵌った試験エリートたち
新理論の構築をどう進めてゆくか

『るいネット』は、48年の実績を持つ起業家集団・類グループが管理・運営しています。るいネットワーク事務局(Tel:0120-408-333, E-mail:member@rui.ne.jp