脳回路と駆動物質
353983 視床外側中心核が「意識のエンジン」であることが判明
 
中田燿平 20/02/23 AM02 【印刷用へ
リンクより転載します。
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 考えてみれば眠りとは恐いものだ。一度寝入ってしまえば、私の意識も体も自分でコントロールすることはできず、覚醒する保証はどこにもない。我々はただ経験的に覚醒することを知っているだけに過ぎないからだ。

 しかし、覚醒は未知の力によるものではなく、我々自身よりもずっと賢い脳の機能だった。この度、意識を始動する“エンジン”が発見された。

 知的情報サイト「Big Think」(2月14日付)によると、先週水曜日に科学ジャーナル「Neuron」に掲載された米・ウィスコンシン大学の研究により、脳の極小部分が意識の“起動スイッチ”であることが分かったという。

 これまでの研究から、頭頂葉や視床といった脳部位が意識に関係していることは徐々に明らかになりつつあった。そこで、ウィスコンシン大学のユーリ・サールマン助教授らは、人間の脳と構造が似ているマカク属のサル(ニホンザルもマカク属)を使い、覚醒時のものに似た電気信号で脳の各部位を刺激し、「意識を生み出す最小のメカニズム」を特定しようとしたという。

 その結果、視床外側中心核と呼ばれる非常に小さな部位が意識のエンジンだと判明した。ここを刺激するとサルは目覚め、脳波も覚醒時のものになり、いかにも目が覚めたという反応を示したという。そして、視床外側中心核への刺激を止めると、スイッチを切ったかのように、すぐにサルは意識を失ったとのことだ。

 脳の中でも極めて小さい視床を構成するたった数ミリメートルしかない部位が意識の目覚めにとって決定的に重要な役割を担っているというのは驚くべきことだが、同時に心もとない。我々の意識はこんなにも儚いものの上に成り立っているのだ。

 それはさておき、今回の発見は未来の医療に大きく貢献することが期待されている。今後詳細なメカニズムが明らかになれば、意識障害の治療や昏睡状態から患者を目覚めさせることができるかもしれないし、麻酔をかけられた患者が本当に意識を失っているか判断することも今よりずっと確定的に行えるようになるからだ。

 今回の発見は医学的に非常に有益な研究であることは間違いない。ただ、脳の特定の部位を刺激したことで、意識が起動されたからといって、脳=意識だと考えるのは早合点だ。

 最近流行りの哲学者マルクス・ガブリエルが『私は脳ではない』(講談社)で指摘しているように精神や意識活動は脳がなければ発生はしないが、脳とイコールであるとは考えられない。同書はその理由をいくつも上げているが、ここでは「命題的態度」について紹介しておこう。

 命題的態度とは、「コロナウイルスが流行していること」という命題に対してとる恐れ、怒り、不安といった態度のことである。「コロナウイルスが流行していること」というのは客観的な事実であるが、「コロナウイルスが流行していることを恐れている」は主観的である。

 ガブリエルは、命題的態度なしに意識は成り立たないとするが、これに対し、「消去主義的唯物論」と呼ばれる哲学説を提唱する哲学者のポール・チャーチランドは、命題的態度の実在を疑っており、脳科学の進歩とともに脳の物質的なあり方として捉えられるようになるとしている。しかし、ガブリエルはチャーチランドの態度に矛盾を見出す。なぜなら、チャーチランドは「命題的態度が存在することを“疑っている”」からだ。疑うとは命題的態度に他ならない。疑うことなしに一体どうやってチャーチランドは命題的態度に疑問を持つことができるだろうか?

 上記の議論が正しければ、物質的なあり方ではとらえられないものが意識には宿っていると言えるだろう。意識と脳は切り離せない。しかし、脳だけでは意識を解明することはできないのである。
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