生物学を切開する
347818 何度でも再生するイモリの体に秘められた不思議な力
 
匿名希望 19/07/22 AM01 【印刷用へ
欠損した体が、元通りの姿に修復していく・・・。私たちヒトにとっては夢のような話だが、いとも簡単にそれをやってのける生物がいる。それが、イモリだ。小さいうちは水の中、大人になれば陸で生活する両生類だが、その体に秘めている「再生力」はほかの生物と比べても群を抜いている。再生をする生物といえばトカゲの尻尾を連想する人が多いかもしれないが、トカゲは尻尾の骨まで完全に再生することはできず、再生可能な回数も1回限りだ。しかしイモリは、たとえ腕を切断しても、傷跡を残さずに骨を含め何度でも再生できるという。過去に行われた実験では、目の中でレンズの働きをする水晶体を19回取り除いても、問題なく再生したという記録が残されている。

実はイモリに限らず、カエルやオオサンショウウオなどの両生類は、水中で暮らす幼生期に高い再生力をもっている。また、ヒトを含む四肢動物も、程度の違いはあるものの、水中成長する胎児期に高い再生力をもつことが知られている。ところがイモリに限っては、成体となり陸上生活に適応した後も高い再生力を保っているのだ。なぜ、イモリは成体でも再生力を失わないのか。その謎については、未解決のままであった。しかし千葉教授率いるチームの研究により、実はイモリは幼生期にもつ再生力をほかの生物と同様に一度失い、代わりに別のしくみの再生力に切り替えることで成体後も再生力を維持しているということがわかってきている。

成体イモリの前肢再生実験の様子
千葉教授らの研究によれば、イモリが幼生期にもつ再生のしくみと、成体になってから再生するしくみは異なるという。

「幼生期のイモリや私たちヒトの胎児には、役割分担される前のどんな細胞にもなれる『幹細胞』が存在し、それを使うことで傷を再生します。この『幹細胞』は陸上生活をし始めるとガクンと数を減らし、損傷した細胞の再生が難しくなります。しかし成体になったイモリは、『幹細胞』に代わり、役割分担された後の細胞の特徴をいったん消して(=脱分化)つくった『脱分化細胞』を用いて傷の再生をするのです。つまり、筋繊維が切断されれば、筋繊維から筋繊維の元になる『脱分化細胞』をつくって復元する。骨は骨だし、皮膚は皮膚というように、傷ついたのがどんな種類の細胞だったかという記憶をもったまま再生する。とても効率的だし、機能的なんです」。

つまり、イモリとヒトの再生力の決定的な違いは、役割分担された後の細胞を"脱分化"するためのスイッチの有無だというのだ。

「イモリはその進化の途中で、傷を直すプログラムが突然変異を起こしたことで、細胞を"脱分化"するスイッチを手に入れたのではないかと考えられます。僕たちの研究は、その突然変異のしくみを解き明かすことで、ヒトに応用できる"脱分化"のスイッチを作り出すことなんです」。

千葉教授の研究室ができた2006年当時、日本はこの分野の研究において、海外にかなり遅れている状況だった。それから10年余りが経ち、医療技術が飛躍的な進歩を遂げた今では、再生医療について耳にすることも格段に増えた。千葉教授の研究には、関連性が強い医療系の研究者や臨床医との共同研究も多い。そこで感じるのは理学と医学、双方の研究スタンスの違いだ。

「まわりはみんな医学系ですが、私は理学の人間です。両方とも生物を扱う学問としては同じですが、立ち位置が明確に違います。理学から生物を見る人は『なぜそう生きるのか』という存在意義を、医学から生物を見る人は『どうすれば人間に適応されるか』ということを考えます」。
 
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