日本を守るのに、右も左もない
317445 近代化で日本人の言語能力は低下する一方
 
山澤貴志 ( 51 鹿児島 ITコンサル ) 16/07/17 PM10 【印刷用へ
現代人の言語能力の低下は多くの人々が認めるところだと思うが、他方で、「近代化によって日本人は無知蒙昧から脱却したのだ、日本人が世界競争に負け始めたのは、グローバル化、近代化が遅れており、民主主義の確立も、個の確立も遅れているからだ」といったような言論が今も支配している。この誤った認識を転換しないことには言語能力の再生はないだろう。歴史を遡って言語能力及び、言語能力の根幹をなす内なる欠乏(いたいこと、伝えたいこと)の変遷を振り返ってみたい。

●江戸時代

戦後の歴史教科書は、近代化・西洋化を進めるGHQの意向を受けて、長らく「日本人は鎖国によって、近代化に遅れ、人々は貧困にあえいでいた」というイメージを人々に植え付けてきた。しかし、近年の江戸研究の成果によって、以下の事実が明らかになってきた。

欧米は戦争と近代科学技術によって市場拡大を推し進めたが、江戸時代の日本は、幕藩体制と鎖国によって、戦争を封印し、自立した自治共同体と参勤交替という国内ネットワークづくりによって、西洋以上の先進国となっていた。例えば、当時の江戸は、パリを抜いて人口世界一の都市であり、上下水道といったインフラでもパリを圧倒していた。そうした経済発展と技術を支えていたのは、江戸の人々の学力水準の高さ。江戸の識字率は70-80%と言われ、イギリスの20-25%、フランスの1.4%をはるかに凌いでいる。言語能力の進化は大衆的な次元に止まらず、知識階級も進化を遂げた。日本人の潜在思念に注目した本居宣長の「もののあわれ」や、自然の摂理に沿った生き方を解いた安藤昌益の「自然真営道」など、儒教・仏教といった中国からの輸入思想を消化・浄化した上で、日本独自の思想が花開いた時代でもあった。

こうした江戸時代の人々の言語能力の発展を支えた、内なる欠乏はなんであろうか。この時代の日本人をみた欧米人が一様に驚くのが、開放的で活力に満ち溢れる人々の姿である。子どもにムチを振るうのが当たり前の欧米と違い、日本では子どもたちはなにかを強制されるのではなく、寺子屋であれ、若衆宿であれ、主体的に学びあっていた。共同体の自治の精神「自分たちの生きる場は自分たちの手でつくっていく」が子どもたちにも貫かれており、大人たちの背中を見ながら、誰もが自ずと真似=学びに向かっていったのだろう。(なお活力の根幹に性充足があるとすれば、江戸の性のおおらかさも、より根本的なエネルギー源であったといえるかもしれない。)

●明治

そうした、江戸の自治精神は、明治維新の志士たちにも受け継がれた。「和魂洋才」というコトバが象徴しているように、近代思想を消化しながらも、その根底には江戸時代に育まれた精神性が息づいていた。明治維新の立役者となった薩摩藩士たちは、子どもたち同志の学びあいを重視する「郷中教育」でしごかれた若者であった。西郷隆盛が残した「南洲翁遺訓」は今も人々を惹きつける力があるが、その源泉はこの「郷中教育」にある。また初期の明治政府は孝明天皇に仕えた「賊軍の会津藩士」たちを教育官僚に迎え入れたが会津藩には「什」という地域組織を教育の単位としていた。 リンク 

しかし、明治=薩長政権は孝明天皇暗殺の上に成り立ったクーデター政権であり、欧米との接触を通じて、土着的な自治共同体発の教育ではなく、市場拡大を進めるための「上からの教育」に方向を切り替える。と同時に、恋愛の美化、自由礼賛、神(天皇)の名の下の平等といった西洋発の架空観念を使って、人々の市場に対する関心を引き出した。上からの教育に対する農村の反発は大きなものがあったが、農村も市場経済に巻き込まれ、養蚕などの商品作物が暴落することで貧困が拡大すると、農村共同体も変質。立身出世を目指して、帝大、陸軍大学校へと若者が進みだす。
 
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