アメリカ:闇の支配構造と略奪戦争
301944 米国議会で議論噴出のTPPと「為替操作禁止条項」 ―なぜ日本のマスメディアでは報じられないのか (2)
 
黒川慧 ( 27 栃木 会社員 ) 15/03/10 PM09 【印刷用へ
(1)からの続き

★なぜ米国の主張が伝えられないのか

この為替操作禁止ということ自体は、主権侵害に近い発想であり、正直「そこまで干渉するつもりなのか」という感想を抱かざるを得ない。米国が為替操作について標的にしているのは日本と、そして中国であるが、こうした要求が米国議会でまかり通っていることを知れば、多くの国民が驚き、怒りを持ち、そしてTPPというツールがこのような形で米国の都合で形成されていくのか、と実感するだろう。

 ところがこのこと自体が日本のマスメディアではほとんど報じられないか、単に「米国が為替操作禁止を求めている」という程度の話しか伝えられない。つまり日本が非難され、完全にターゲットにされている、という文脈ではないため、事の本質が十分に伝えられなかったのである。

 なぜだろうか?ワシントンやニューヨークにいる日本のメディアの駐在記者が「知りませんでした」というには無理がある。いやワシントンやニューヨークにいる必要もなく、米国各紙の膨大な量の記事はネットから容易に読むことができる。にもかかわらずこのことが伝えられないのは、「日本の円安操作=アベノミクスの苦肉の策」であり、それが米国産業界の逆鱗に触れている、ということはアベノミクスのまやかしを暴くことにもなりかねいからではないだろうか。あるいは「米国からこんなにキレられている」ことを報じることがタブーとされているのか、主権侵害ともいえる要求が容易にされてしまうTPPの本質が日本に知れ渡ると何か都合が悪いのか――。いずれにしてもそこには何らかの政治的判断あるいは政治的圧力があると想像しない限り、私には納得いく理由が見つからない。


★今まさに大論争となっている為替操作禁止条項

それから1年あまりが過ぎたわけだが、為替操作禁止条項については実はここ最近、TPP交渉全体にも影響を与えかねない大きな論点となっている。

2015年2月、米議会では超党派議員が日中などの為替操作を阻止する法案を提出した。他の議員からも同様の提案が出ている。交渉全体は1月のニューヨークでの首席交渉官会合が思うように進展していないため、3月の閣僚会議は開催されないことになった。しかし来年の大統領選までに妥結、批准をしたいというオバマ大統領にとっては、この春に「大筋合意」を取り付けておかねば間に合わない。米国内の一番のネックとなるのはTPA(大統領への貿易促進権限)をオバマが手にできるかという点だが、それと並行して為替操作禁止条項についても、共和党・民主党それぞれの中で意見が異なり、激しい議論となっているのである。

「為替操作禁止条項をTPPに盛り込め」という勢力がある一方、慎重派の主張は、「そろそろ妥結に近いTPP交渉に、さらに難航するであろう為替操作禁止条項を盛り込めば、妥結が遅れてしまう」というものと、「そもそも日本の円安誘導は制裁を与えるべき為替操作にあたらないのではないか」という立場からのものとに大きくいって分かれている。

慎重派の意見として、クリントン政権で大統領経済諮問委員を務めたジェフリー・フランケル氏(ハーバ−ド大学教授)は「責任を転嫁しようという動きは常に存在する」と発言。元財務省高官のテッド・トルーマン氏は「(制裁条項は)ほぼ確実に交渉の難航を招く古典的な例といえる」と指摘。イエレン連邦準備理事会(FRB)議長も、2月24日の議会証言で、為替操作に対する制裁条項は金融政策に「支障」を来たしかねない、と反対する立場を示した。

このように対立と議論は尽きず、最終的に為替操作禁止条項がTPPに盛り込まれるのかどうかは5分5分の可能性だと私は見ている。前述のTPA法案自体、2月の早めに出され、3月の上旬には取得か、という説もあったが、実際には現時点(2月28日)になっても法案提出すらされていない。それどころかつい数日前、米上院財政委員会は貿易問題をめぐる公聴会を無期限に延期すると発表したのだ。理由は、TPA法案をめぐる協議が難航しているためだという。

「妥結が近い」といわれる交渉だが、実はよく目を凝らしてみれば米国議会内は為替操作禁止条項やTPA法案をめぐって大もめにもめているのである。このかんオバマ大統領は、血眼になり「俺にTPAをくれ!」と議会や国民に対する強烈な働きかけとアピールを行っている。またフロマン代表をはじめとするUSTR関係者も、念仏のように「妥結妥結」とメディアに語り続けている。しかし冷静に考えれば、TPA取得や妥結が米国内で楽観できないからこその彼らの強い訴えではないか。そして注意しなければならないのは、日本のマスメディアでは米国が「希望する」こうしたスケジュール感だけが、ともすれば垂れ流される。「妥結は近い」「妥結は近い」と日々繰り返し見出しに書かれれば、「ああ、そうなのか・・」と洗脳されてしまう危険があることだ。米国の議会は少なくとも現時点で、為替操作禁止条項にしろTPA法案にせよ、議論を尽くし一つの意見にまとまってなどはいない。
 
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