次代の活力源は?
292861 「老人」と「回想」
 
匿名希望 14/07/27 PM10 【印刷用へ
高齢者の役割を歴史的に見ていくと、現代のように、役割喪失して、路頭に迷っているということは無かったみたいです。

高齢者の役割は、「知恵の伝承」。
これは、昔も今もこれからも変わらない普遍構造かもしれません。

以下、たかちゃん、「杉浦日向子」を読むリンク
より引用します。

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江戸で皆が心底祝ったのは歳を重ねること、長寿です。江戸では、年長者をとても頼りにし、いたわりました。「亀の甲より年の功」、机上の空論より長年の経験が重んじられた時代でした。

江戸には「老後」という言葉はなく「老入れ」といい、前向きな老境を示しています。まず四十歳になると「初老」といい、入門者。以後「五十の賀」(中級者)を経て、六十歳にして老年の「成年」である「還暦」を迎えます。六十年で、暦が一巡して元に還ることからそう呼ばれ、本卦還りともいいます。還暦からは、晴れて隠居道楽、まっさらな人生のスタートです。それを祝い、赤い手作りのちゃんちゃんこや頭巾を身につけます。これは新生の意を込めて「赤ちゃん」の格好をするわけです。還暦の祝いでは、赤ちゃんに許されることは何でも認められました。欲しいものをねだったり、好きな場所を再訪したり、その人が望むことをできるかぎりかなえてあげます。

還暦からが、人生で一番楽しい時間というのが江戸の考え方ですから、以降はお祝いが目白押しとなります。

七十歳は「古希」、唐の詩人杜甫の「人生七十古来希なり」の言葉が由来です。

七十七歳は「喜寿」、喜のくずし字が七十七と書くからです。八十歳が「傘寿」、傘の略字が八十だからです。八十八歳の「米寿」も、「米」を分解すると八十八となることから。九十歳が「卒寿」、九十を「卆」=「卒」とします。九十九歳は、「百」の上の一を引くと「白」になるから「白寿」。それぞれのお祝いの名のつけ方も酒落てますね。

いずれも、堅苦しい決まり事はありません。江戸では、生産を担う若い世代を重要視する農耕中心の地方とは違い、熟練の技が要求される職人の街であったため、経験豊富な知恵者としての年長者が尊敬されましたから、ことさら畏敬の念と親しみを持ち、地域社会がこぞって長寿のお祝いをしたのです。
(『お江戸風流散歩道』)

江戸時代なら、僕も、老いの「中級者」というところか。
江戸時代の「老人」への敬意は、現代社会よりも、遥かに素晴らしい。
ここで考えてみたいのは、この「老人」への敬意の意識は、杉浦日向子が言っているように、江戸が職人の町だったから、ということよりも、もっと遡れるのではないか、ということだ。

それはクジラ漁の場合も同じです。クジラ漁でとてもいいシーンは、やはり捕獲したクジラを解体するところなんですね。最終的には皆で分けるんですけれども、クジラを獲ったクルーがそのクジラを解体する権利があって、だからクジラを解体するというのはすごく誇りのあることなんです。

ところが若い連中はまだどうやってクジラを解体したらいいかよく分からない。

それで必ず周りに年寄りが付いているんです。年寄りが指示を与えながらクジラの解体が進んでいくんですけれども、そういう風景はすごくいいなと思います。年寄りがそういう形で力を持っているということにホッとするんですね。年寄りがどこかで力を持っている社会は健康な感じがする。若い連中も年寄りに対して一目置いていて、そういう風景は見ていて本当にいいですね。
(『魔法の言葉』 星野道夫)

星野道夫の言葉によれば、現代のアラスカには、「老人」に敬意を払う社会の感覚が、まだ生き続けている。この感覚は、杉浦日向子の江戸の感覚と同じものだと思う。

これは、宣教師以後のアメリカでは失われてしまった先住民のインディアンの感じ方・考え方のようなものが、現代のアラスカでは、今も滅びずに生きている、ということなのではないだろうか。

ダニエル・タメットは、こう言っている。

回想することは、高齢者のあいだではとくによく見られる記憶の活動で、これは、過去を回想したり過去に浸ったりする能力が、一生衰えずにあることの証なのだが、そうした行為を「過去に住む」という否定的な言葉で語る場合が多い。しかし、老年学者(加齢の現象とその謎について研究している人々)の研究で、この考え方は否定されている。回想することは、歳をとる過程として健全で当たり前のことなのだ。多くの実験で、回想する老人のほうが回想しない老人より鬱状態になりにくく、精神的に健康だという結果が出ている。

もしかしたら、回想を好むゆえに(そして、それが役に立つために)、老人は人の心を打つ物語の語り手になれるのかもしれない。多くの共同体で、高齢者たちが担っているのは、共同体の歴史を(そして知恵や知識を)若い世代に伝えることだ。

たとえば、ネイティブ・アメリカンでは、老人が文化的記憶の担い手として尊敬を得ていて、部族の起源や狩りの仕方、大自然と敬意を以てつきあう方法などの生きた知識を物語という形で伝えていた。老人の話を聞かないような倣慢な者は、過去の過ちを繰り返すよう運命づけられると言われていた。残念なことに、宣教師がやってきてヨーロッパの文化が伝わり、記憶を中心にしたネイティブ・アメリカンの伝統は破壊されてしまった。

確かに西洋の多くの国では、記憶の役割とその重要性が急激に衰退し、コンピュータを始めとする機器が、経験と知恵とを記憶する脳に取って代わっている。しかし、高度に洗練され、絡み合った、人と人を繋ぐ記憶の代用品としては、コンピュータはあまりにもお粗末だ。記憶は人間的なものである。なぜなら過去は(個人の過去も、共同体の過去も)人間の現在と未来の源なのだから。
(『天才が語るサヴァン、アスペルガー、共感覚の世界』 ダニエル・タメット)

ダニエル・タメットが言っていることは、妥当性があるのではないだろうか。
老人は、「昔」のことを「回想」する。

「回想」するたびに、言葉や過去が洗練されて、「叡智」を帯びた語りの言葉が実現されるようになっていく。

そうだとすると、昔の人(社会)が、「老人」を敬っていたのは、経験的にそのことを知っていたと言えるかもしれない。

タメットの言う通り、現代の社会は、老人の知恵や経験に取って代わって、コンピューターの機器やインターネットが優位となってしまった。だが、「コンピュータはあまりにもお粗末だ。」

僕も、コンピューターは便利なので使っているが、それでも、たとえば一老人「吉本隆明」の言葉(思想)に、今でも遥かに頼っていると言っていい。

コンピューターやインターネットからは、「叡智」の言葉は、決して生まれない。
 
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