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288745 平安時代の婚姻の検討 妻問・婿取りから嫁取に移行するには? その4 平安時代は、上流階級に父系観念がほぼ定着した時代
 
匿名希望 14/03/28 AM01 【印刷用へ
引き続き平安時代の婚姻を検討します。今回は、婿入婚の夫は「婿」ではない、という主張をご紹介します。

(以下引用です。)

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女性史研究 第17集 「招婿婚」考 この術語は奇妙である 緒方 和子

〔略〕

井上清氏はその著書『日本女性史』の中で,『今昔物語』の説話のなかに地方の名主・農民らの生活状態が伺えるとして,娘の結婚についてその例を次のようにあげている。

(一)娘の結婚については,父母がその夫を決めるのが普通であったことは,「今昔物語」のすべての話に共通しているとして,巻二十「財に耽り,娘が鬼のために轍われたのを後悔の語第三十八」について述べている。

(二)結婚は女が男の家に入るのではなく,男が女の家へ通う。上記の鬼に食われた話もそうであるが「今昔物語」の中には,女が後世のように「嫁入り」する話はない。みな男が女の元へ行く。結婚後も暫くは夫婦は別居し,男が女の元に通うのが普通であるが,結婚後適当な時に,夫婦は同居する。これも室町時代までかなり広く行われた事であると述べている。このことは一時的妻訪婚であるが後に妻方居住婚になるとは言われていない。

(三)男は二人以上の妻をもつことができたとして,巻二十六「三河国に犬の頭の糸を始める語第十一」の例をあげ,本妻を大事にするのが当然という思想であると述べて前妻が本妻で,後妻が妾とされたのであろうとのことである。

(四)離婚については妻の方からするという権利はおそらくなかったであろうが夫の方は簡単に妻をすてることがあった。女子の再婚は自由である。再婚しない方が珍しかった。しかしこの時代から夫に死なれた女は再婚しないのが褒めるべき事である。という思想がおこっているとして,巻二十九「女,乞飼に捕えられる子を棄てて逃げる-第二十九」このことは山中で乞食に出あい,犯されそうになるので子どもを人質にして逃げ出した。やがて出あった武士に助けられ武士に頼んで子どもを取り戻そうとしたが,そのとき子供は既に殺されていた。武士たちは女が貞操を重んじたのを大いに褒めそやしたとあるが,このことは武士社会では子供より夫との関係を重しとする思想が起こり始めた事を示していると述べている。

(略)

 これらの論述は「招婿婚」を否定するものである。だが井上氏は「日本女性史」の刊行のずっと後に出版した「日本の歴史」(上)の中で,嫁入婚について次のように述べている。

「夫婦が結婚と同時に同居し,嫁入り婚が民衆の問に行われるのも,近畿地方の先進地域では,15〜16世紀である。後進地域はもっと遅れる。これは単婚家族の小農民の自立と関係があろう。」

 嫁入婚が,こんなに遅くまで行なわれていなかったとするのは正しくない。嫁入婚である夫方居住婚は,大化前代から行われていたのである。従って井上氏が「日本女性史」で書いているように男の一時的妻問婚を認めてよい。奈良時代の戸籍では離婚や再婚が認められている。このことは布村一夫氏の論文「籍帳における離婚と再婚」で籍帳からの事例によって検討されている。

 平安時代になると「蜻蛉日記」や「源氏物語」その他の物語文学によって,男の身勝手な離婚が伺える。井上氏が「今昔物語」の家族から家父長制で父系出自的な一夫多妻婚で夫方居住婚が強いものであったとしているのは,女の地位は待つ女として惨めさを示すのである。そして平安も末期になると武士階級の台頭によって女子の再婚すら認めないようになり,次の鎌倉時代には,女の地位はますます低下し,男に完全に隷属する。

 高群氏による「招婿婚」の奇妙さを指摘してきた。
(a)はじめに「男子が女子の族または家に招かれ」とあるが,これは娘の婿をとるか,あるいは寡婦が後夫をとる招夫婚かである。

(b)次に「通ったり」というのは妻問婚であり,更に「住んだり」というのは妻方居住婚の事である様であるが,正しくは妻方が提供する家屋=婚処に居住するのである。これも一時的であれば,一時的妻方居住婚である。そこに一生の間居住することもある。これを永久的妻方居住婚であるとしても,いずれの場合も妻方居住婚といわれるものは,妻方の近親者達の中で暮すのではない。妻の母あるいは妻が属する血族集団の老女のもとにある世帯の中で暮すのではない。
(略)

 繰り返していうと,父系出自がみられる平安時代の家父長的な貴族の「家」の娘に男が妻訪し,一方居住ではなく,妻の父の提供する家に,夫妻が独立の世帯としてすむだけの婚姻であるという事になる。生まれた子が妻の家の成員になるのではない。また娘の夫が妻の家の成員になるのでもない。夫も子も父系出自によっている。この様に見てくると,(一)夫婦の身柄が終生別族に属するというのはおかしい。(二)離婚したら子を妻方が養うとあるが,奈良時代の戸籍では夫も子どもを引きとったりするし,妻もひきとったりしている。(略)要するに父系出自の下で妻方居住婚というのは,妻方居住婚とはいえないものである。娘の夫をその娘のためだけの夫にしておきたい,あるいは娘をその夫の主妻にしておきたいというような娘の父の願いが,夫のために婚処を提供する。

 そして「露顕」をして娘の婚姻を公にしても,これは婿養子を迎えたのではない,夫は一夫多妻婚をしていて,別の女の家でも同じような事をしている。これではなおさら「招婿婚」とはいえないのである。

 これまでの論述はつぎのようにまとめられる。

(A)「招婿婚」は術語としてはおかしい。事実をまちがって「招婿婚」としている。妻方が提供する婚処に一時的か永久的かに居住するだけである。
(B)妻方の提供する婚処に住むのを妻方居住婚であるとは言えない。仮にそういったとしても,この様に言われる妻方居住婚だけでなく夫方居住婚である嫁入婚もあるので,平安時代を「招婿婚」の時期とすることはできない。

(引用終わり)

解り辛い記述ですが、

「妻方居住とされるものは、(家父長的な)氏族が娘の為だけの夫にしておきたい、或いは娘をその夫の正妻にしておきたい、と言う理由から妻方が住まいを用意したに過ぎず、夫は「婿(養子)」ではない」と言いたいようです。

この間我々が検討してきた妻問→婿取も、渡来人が氏族再興のために父系婚姻様式を日本の母系婚姻様式に接木してきた、と分析しました。特に渡来人が大半を占める上流階級では(天皇家や藤原家がそうであったように)大した経過も無く父系的であったようです。

高群氏にも緒方氏にも、この様な意識が余り無いので、居所の所在や通いなどの形態にばかり固執するようですが、婚姻を様式化するには相応の必然性があり、この時代には天皇制や貴族社会の構築などのために婚姻を利用する必然性があったと考えた方が良いように思います。

平安時代は、奈良時代以降築いてきた父系男子への役職の世襲や、そのための女には貞操も求めるなどの父系観念が相当定着した時代と言えると思います。
 
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