日本人と縄文体質
283021 江戸の育児と教育
 
阿部佳容子 ( 51 大阪 営業 ) 13/11/04 AM08 【印刷用へ
江戸時代の江戸における育児と教育に関する記述を見つけましたので紹介します。

以下、杉浦日向子
「うつくしく、やさしく、おろかなり―私の惚れた江戸」より

-------------------------------

江戸時代中期に、江戸の町の人口は百万を超え、当時、世界一のメガロポリスとなった。百万のうち、おおまかに五十万が武士で、五十万が庶民である。居住区の三分の二が武家地で、六分の一が寺社地、残る六分の一の地に、人口の半数にあたる庶民が詰め込まれた。七割がたの庶民は借地で、その大半の三十万人以上が、長屋という共同住宅に暮らしていた。

いわゆる「九尺二間の裏長屋」は、一世帯三坪、四畳半一間押入れなし。狭小住宅の見本である。もともと単身者用の1Kであり、実際、男の独居が圧倒的に多かった。男女比が二対一の江戸の長屋世帯では、妻帯して子をもうけるのは天与の運だった。都市部では、少子化が顕著で、夫婦に子一人の核家族。もっとも、長屋では、「親子三人川の字」が、スペースの限界といえる。

長屋に子が生まれると、長屋じゅうの人が、その成長を楽しみにして世話を焼くから、職場が外にある母親も育児に煩わされずにすむ。子は親の所有ではなく、地域社会の財産だから、育児ではなく、次世代の人を育てるのだと考える。たとえば「子は十年の預かり物」という。おなかの中にいるときから十年を養って、その後は労働力の一端として世間に出す。俗に「つ離れ」という。一つから九つまで、つ、がついて、十(とお)で離れる。数え十歳は、子供奉公の目安の歳だから、添い寝するのも、体を洗うのも、親が手伝うのは、それまでとされた。

とはいえ、いつの時代も子にベッタリの親はいるもので、周りに薦められて、泣く泣く奉公には出したものの、心配で、毎日奉公先へ様子を見に行って、逆に子に叱られたなどという話は、日常茶飯にある。多くの小父さん小母さんに、見守られて育つ、江戸の子どもは、肉親の情とは別の、地縁の人情を、早くから知ることになる。諸国の吹きだまりだった大都会江戸の繁華は、見知らぬ同士が、縁あって寄りあい、支え合ってこそ、成り立った。

江戸時代は、貧しく哀れで、西洋文化から、はるかに遅れた、未開な社会のように思われがちである。ところが、十八世紀後半の日本には、初等教育を指導する民間機関が多数現れ、日常生活に必要とされる教養を、各自の求めに応じ、教えていた。主に西日本では、「寺子屋」と呼び、江戸では、もっぱら「手習指南所」、「手跡指南所」と呼んだ。もとは寺で檀家の子供衆を集め、僧侶が教えたので、寺子の集う部屋、つまり「寺子屋」が正しい。

が、江戸は武士の都で、万事、堅苦しく、子を教え導くのに、物を売り買いするのと等しく、「屋」を名乗るのにはふさわしくない、というのでこうなった。江戸の看板通り、「読み書き」が中心だった。

指南所は、月謝の定めのないものも多く、有る者は現金を払い、無い者は、それなりの気持ちとして、師匠に生活用具や食料、または労働力を提供した。市井の指南所の普及により、読書人口が増え、出版界、貸本屋が繁盛した。就学期間は、十日間だろうが十年だろうが、当人の自由。もっと学びたい子は、見合った教科書を貸し与え、個別指導に入ることもあるし、さらに専門的な「私塾」を紹介することもある。押し付けはない。「南総里見八犬伝」のような、世界的な長編ベストセラーを支えたのも、庶民の学力。楽しく学ぶ場が寝食の間にあったから。
 
  List
  この記事は 282813 への返信です。
  この記事に対するトラックバックURL  http://www.rui.jp/tb/tb.php/msg_283021
  ※トラックバックは承認制となっています。

[過去の記事へ]
[一覧へ戻る] [新しい記事へ]


◆実現論本文を公開しています。
 実現論 : 序  文
 第一部 : 前  史
 第二部 : 私権時代
 第三部 : 市場時代
 第四部 : 場の転換
 参考文献

 必読記事一覧
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28
大転換期の予感と事実の追求
実現論の形成過程
自考のススメ1.未知なる世界への収束と自考(1)
自考のススメ1.未知なる世界への収束と自考(2)
自考のススメ1.未知なる世界への収束と自考(3)
自考のススメ1.未知なる世界への収束と自考(4)
自考のススメ2.現代の不整合な世界(問題事象)(1)
自考のススメ2.現代の不整合な世界(問題事象)(2)
自考のススメ2.現代の不整合な世界(問題事象)(3)
自考のススメ3.自考力の時代⇒「少年よ、大志を抱け」(1)
自考のススメ3.自考力の時代⇒「少年よ、大志を抱け」(2)
1.これから生き残る企業に求められる能力は?
2.私権圧力と過剰刺激が物欲を肥大させた
3.市場の縮小と根源回帰の大潮流
4.共認回帰による活力の再生→共認収束の大潮流
5.自我と遊びを終息させた’02年の収束不全
6.同類探索の引力が、期応収束を課題収束に上昇させた
7.情報中毒による追求力の異常な低下とその突破口
8.大衆支配のための観念と、観念支配による滅亡の危機
9.新理論が登場してこない理由1 近代観念は共認収束に蓋をする閉塞の元凶となった
10.新理論が登場してこない理由2 専門家は根本追求に向かえない
11.学校教育とマスコミによる徹底した観念支配と、その突破口(否定の論理から実現の論理への転換)
12.理論収束の実現基盤と突破口(必要なのは、実現構造を読み解く史的実現論)
近代思想が招いた市場社会の崩壊の危機
新理論を生み出すのは、専門家ではない普通の生産者
現実に社会を動かしてきた中核勢力
私権時代から共認時代への大転換
市民運動という騙し(社会運動が社会を変えられなかった理由)
民主主義という騙し:民主主義は自我の暴走装置である
統合階級の暴走で失われた40年
大衆に逆行して、偽ニッチの罠に嵌った試験エリートたち
新理論の構築をどう進めてゆくか

『るいネット』は、47年の実績を持つ起業家集団・類グループが管理・運営しています。るいネットワーク事務局(Tel:0120-408-333, E-mail:member@rui.ne.jp