国家の支配構造と私権原理
272794 火山噴火で飢饉が起こり、不安解消の新宗教が三国では仏教であった。それを稲目が天皇に導入進める。
 
今井勝行 ( 中年層 東京 会社員 ) 13/02/05 PM07 【印刷用へ
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仏教はなぜ日本で普及したのか
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【つづき】

3. 535年の異常気象
 
この謎を解く鍵は、蘇我稲目が大臣になった宣化元年(536年)における宣化天皇の詔にある。

 食者天下之本也。黄金萬貫、不可療飢。白玉千箱、何能救冷。
 
食は天下の本である。黄金が万貫あっても、飢えをいやすことはできない。真珠が一千箱あっても、どうして凍えるのを救えようか
 
安閑二年(535年)正月の時点では、安閑天皇は次のような詔をしている。

 間者連年、登穀接境無虞。元々蒼生、樂於稼穡、業々黔首、
 免於飢謹。仁風鬯乎宇宙、美聲塞乎乾巛。内外清通、国家股富。
 
近頃、毎年穀物は実り、国境に外敵の心配はない。万民は生業を楽しみ、飢饉の恐れもない。天皇の慈愛は国中に広がり、その名声は天地に満ちている。内外は平穏で、国家は富み栄えている。

安閑天皇の時代は、「安閑」の名にふさわしい平和で静かな時代だった。ところが、宣化天皇は、「宣化」の名にふさわしく、引用した詔で、ある変化を宣言した。デイヴィッド・キーズは、この詔について次のように言っている。

『日本書紀』は、全十二万語に及ぶ大著だが、このような記載はほかに一ヶ所もない。しかもこの文章が、ちょうど同じ時期に世界中に広まっていた天候異変と全く同一の現象を記していることは、決して偶然ではない。
 
デイヴィッド・キーズが指摘するように、詔が出る1年前の535年から翌年にかけての時期は、世界的な寒冷化の年であった。そのことは世界各地の年輪データから実証されている。地域によって差があるが、535年から数年、場合によっては20年以上にわたって、年輪の幅が異常に狭くなっている。その間、木がほとんど生長しなかったのだ。
 
さらにグリーンランドや南極の氷雪を分析してみたところ、6世紀中ごろの氷縞に火山噴火の痕跡である硫酸層が大量にあることが確認された。このことは、火山噴火による大気汚染が日光を遮断し、世界的な気候の寒冷化をもたらしたことを意味している。535年以降、異常気象による飢饉と疫病で人々が苦しんだことは、世界中の文献に記載されている。
 
宣化天皇は、引用した箇所に続けて次のように言っている。

 夫筑紫國者、遐邇之所朝届、去來之所關門。是以、海表之國、
 侯海水以來賓、望天雲而奉貢。自胎中之帝、[扁三水旁自]于朕身、
 牧藏穀稼、蓄積儲粮。遙設凶年、厚饗良客。安國之方、更無過此。
 
そもそも筑紫の国は、遠近の国々が来朝する所、往復の関門となる所である。そこで海外の国は海の状態をうかがってやって来ては賓客となり、天雲の様子を見ては、貢物を献上した。応神天皇より我が御世に至るまで、収穫した穀物を収蔵し、食料を蓄積してきた。それをずっと凶年の備えとし、賓客を饗応する糧としている。国を安定させる方法は、これに過ぎるものはない。
 
どうやら、日本以上に、朝鮮半島での飢餓がひどく、日本に来た「賓客」に備蓄した食糧を与えなければならなかったようだ。

『三国史記』によれば、535年には洪水が起き、536年には「雷が鳴り、伝染病が大流行し」、それに引き続いて「大変な干ばつ」が発生した。加えて地震も、535年末に朝鮮を襲った。
 
朝鮮半島で、それまで異教国だった新羅が仏教を採用したのは、535年だったが、日本でも535年以降、同様の天変地異が起き、このために伝統的な宗教が権威を失い、人々は現世利益をもたらす新たな信仰の対象を求めた。仏教をはじめ大陸の先進文明に通じていた蘇我氏が登用された背景には、大和朝廷が未曾有の危機に直面し、伝統的な手法に行き詰まったことがあったわけである。
 
ちなみに、仏教そのものは、538年以前から日本でもその存在が知られていた。『扶桑略記』によれば、継体天皇16年(522)に司馬達止が中国(南梁)から渡来し、飛鳥の坂田に草堂を構え仏像を礼拝したという。しかしこの当時の日本人は、誰も仏教を信仰しようとはしなかった。豊かな時代には、人々は新しい宗教を受け入れようとはしない。
 
一般的に言って、社会不安が広がると、新しい宗教が普及したり、宗教改革が行われたりする。バブル崩壊後の日本でも、広がる社会不安を背景に、様々な新興宗教が跋扈した。
 
気候が寒冷化し、環境が悪化すると新しい宗教が生まれると同時に、権力の集権化が起きる。新しい宗教は、しばしば新しく生まれた権力と結び付き、やがて形骸化し、腐敗していく。その体制が次の環境悪化で危機に直面するとまた同じことが起きる。世界の歴史にはこうした現象が繰り返されているように見える。
 
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