農業
270542 農民の生活(2)
 
佐藤晴彦 ( 54 長野 会社員 ) 12/11/14 AM00 【印刷用へ
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■農民の家族生活
 役家を家長とする複合家族から、夫婦と子どもを中心とする単婚家族が分立して、狭小な耕地を家族労働で維持する小農経営が、村の生産を左右するようになった。こうして、独立家族が成立し、本百姓へと育っていった。
 相続についても、武士家族と違って、分割相続が広く行われた。分割相続については、家督を継ぎ本百姓を相続するものが、土地、財産を最も多く受け取った。相続者は、原則として長男であるが、二、三男でも末子でも相続したし、「姉家督」という女子相続もあったように、武士家族のような長男の単独相続は、厳格に守られるわけではなかった。
 農家でも、家長権は強くまもられ、「いろり」を中心にして家族の座る席次にも明らかに示されていた。
 床の間を背にした「横座」は、戸主と長男だけが座るところであり、その左右が「向座」「鍋座」で、向座はお客、鍋座は主婦の席であった。土間に面した座は「木尻(きじり)」とよび、未だ主婦権を譲り受けていない嫁やその実家のものが座るところときまっていた。しかし、家長も、本家の戸主がきたら横座を譲る、同族の本家、分家の立場が歴然としていた。

 家長は、子女に懲罰を与えたり、勘当して家から追い出すこともできたし、結婚をはじめ、日常の生活のなかで、いろいろ干渉、督励をした。結婚は、「つり合わぬは不縁のもと」「提灯に釣鐘」のたとえどおり、家格、身分がつりあうことがだいじであり、大庄屋は大庄屋同士、庄屋は庄屋同士というように婚姻範囲が決まっていた。
 「石川の橋のたもとに立つめらし(娘)嫁にとるべき名を名乗れ」と求婚されても「おれに問うより親に問へ、親の許した夫ならば、いくしましよとてや、おちやくどの(媒酌人殿)」と応えるのが常識とされていた。
 家長権については、一般に中農以下では、武士ほどの確固たるものはなかった。働く主婦権がかなり強く、家長と主婦の地位は平等に近いものであった。
 飯、鍋の杓子(しゃくし)が主婦の象徴で、主婦以外は誰も手を触れることはできず、主婦権を嫁に渡すことを「杓子を渡す」といったように、主婦は一家の生命をあずかる台所の支配者であった。姑と嫁の関係が語りぐさになっているのもこれらの確執によるものであろう。
 また、一般の農民の間では、武士のように妾をもつようなことがなかったから、主婦は安心して労働や家事に専念できたのであろう。
 子女は、家長権の届かない、暗黙の了解のなかで、若者組、娘仲間のグループをもち、若衆宿、娘宿の生活でいわば公民学習をした。
 若者仲間、若者組は、全国の農、漁村に存在し、ふつう十五歳以上の未婚の青年の団体で、規約等の制定も若者頭の選出も、加入者で自主的におこない、村の祭礼、消防、用水普請などの公共事業を請け負ってその任務としていた。

 若者は、毎夜若者宿に集まり、団体生活のなかで学び、楽しみ、娘たちは、娘宿で裁縫を習い、談笑に興じた。若者頭はすべてを統率して、村の秩序維持の一端を担ったが、ときにはみんなで娘宿に行ったり、娘たちが若者宿に遊びにきたりして、ともに語り合い、歌い、意気投合して愛情を誓いあうものもいた。
 偏った見方をすれば、「不義」「淫猥」と映ったであろうが、この宿の組織は、自由ななかにも人道をわきまえた統制があり、却って乱雑な姫姻を防ぐものでもあった。昭和になって、長崎県のある村で娘宿を廃止したとき、娘たちは結婚の相手が見つけられなくなるといって抗議したといわれる。村の娘のもとに夜這いにいったり、娘を盗み出して結婚することも各地で行われた。これが、自由な結婚への序章であったのかもしれない。
(3に続く)
 
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