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266442 漢字学者 白川静の解釈による「文字(漢字)」の呪術
 
岸良造 ( 59 香川 技術者 ) 12/07/12 AM00 【印刷用へ
「ことばと文字(漢字)」の呪術について調べてみました。

以下は白川静著「漢字」とDESIGN IT! w/LOVE「漢字―生い立ちとその背景/白川静」(リンク)からの引用です。
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白川静著「漢字」より抜粋
 
漢字は文字が成立した当時の文化圏の種々の様相を、正確に反映している。北方のシャーマニズムから、南方の農耕儀礼に及ぶまで、またその間に広範な分布をもつ分身の習慣や貝の文化、あるいは未開の地に後までも残された人身犠牲としての断首祭梟の俗などが、文字の上にその残影をとどめている。わが国の神道の古儀や民間の習俗とも、関連するところが少ないように思われる。神の徒降する神梯の形が、わが国の皇太神宮のそれと同形であることなど、興味ある事実と言えよう。
漢字はまた、神話に時代から歴史の黎明期にわたる、生活の記念碑でもある。それは人間の歴史に上では、大きな流動を示した一時期であった。          
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漢字―生い立ちとその背景/白川静
リンクより

【殷における占卜と王の神聖性と文字】
漢字の元になった甲骨文は、中国で殷の時代に生まれています。その誕生は、確実なところでは紀元前14世紀にまで遡ることができます。
殷の時代、「王朝の秩序の原理は、その神話であり、祭祀の体系」でした。卜いを通じて王は神と交信することで政治を司っていました。その占いに使われたのが獣骨であり、亀の腹甲でした。その亀の甲にすり鉢状の穴をほり、その部分を強く灼くことで、縦横に線が走るのを見て占ったのです。

獣骨による占卜は、文字のない時代からすでに行われていました。古い時代の卜骨には文字は記されていないといいます。占卜は文字がなくても可能なものでした。

ところがある時期から占卜に用いた獣骨、亀の甲に文字が見られるようになります。王による占卜のことばが記されるようになったのです。記された文字は占卜の内容とともに、その結果としての王による占断のことばも記されていました。ただ占卜するだけなら必要がなかった文字による記録は、王による占卜に誤りがなかったことを残すために用いられるようになったのです。つまりは王の神聖性の顕示のために文字は必要になったのです。
『古代にあっては、ことばはことだまとして霊的な力をもつものであった。しかしことばは、そこにとどめることのできないものである。高められてきた王の神聖性を証示するためにも、ことだまの呪能をいっそう効果的なものとし、持続させるためにも、文字が必要であった。文字は、ことだまの呪能をそこに含め、持続させるものとして生まれた。』
白川静『漢字―生い立ちとその背景』

この祭祀が中心となった殷の政治のありかたから様々な文字が生まれています。例えば、殷では祭祀に犬を犠牲として用いることが多かったそうですが、この犬の字がさまざまな祭祀に関連する言葉を示す文字に見受けられるといいます。

【文字と祭祀社会】
いまさらいうまでもなく漢字は象形文字として生まれました。王という字も、王権を示す儀器としての鉞(まさかり)の象形であるとされています。
 
「殷王は、年間を通じて間断なく祖霊との交渉をもち、祖霊の保護を受けることができる」と示すために、殷では一年を埋め尽くすような祭祀体系が組まれていたといいます。

『祖霊の観念、祖霊崇拝の祭祀化は、定着的な農耕社会の成立によって生まれるとされている。このような祖祭の体系は、農耕社会を基礎とする殷王朝の繁栄を反映するものであろう。』
白川静『漢字―生い立ちとその背景』

稲作には欠かせない雨を願って舞い歌う儀礼もあり、その「舞」を示した文字は最初は「無」であり、人が脇に飾りをつけて舞う姿の象形だそうです。

甲骨文として刻まれた文字を読み解いていくことで、このような殷の社会が見えてきます。まさに人工物の解読によって人間またはその社会における生活が見えてくるのです。

【文と文身(イレズミ)】
そもそも「文」という文字自体からも当時の人びとの儀礼が見えるのです。文はもとは文身(イレズミ)を意味する字であり、人の胸部に心臓の形の文身を加えた象形です。

『文身の美しさを文章という。文は人の立つ形の胸部に、心字形やV字形やXなどを加えるのである。章は文身を加える辛(はり)の先の部分に、墨だまりのある形である。』
白川静『漢字―生い立ちとその背景』

文は胸の中央にする男性の文身をあらわしたもので、女性の場合は両乳房に記したといい、その象形から爽という字も生まれているそうです。

【呪力から人間の内面化へ】
似たような文身を示す例としては「徳」の字もあげられています。徳はもともと目の呪力を意味した字で、もともとは「心」はついておらず、目の上につけたしるしを表す象形と目の呪力をもってほかと接することを示した彳を加えた文字です。異族に接する際にそうした文飾を目のうえに施すことで、目の呪力を高めたのでした。

ただ、そうした儀礼も時代が下るにつれ、変化していきます。

『しかしこれらの字は、やがてその呪的な力が、その文飾にあるのでなく、内的な特性、精神的な力にもとづくものとされるようになった。古代の呪的な行為を示す字は、このようにして人間の内面的な特性を意味する語となる。徳の字に心が加えられるのには、帝から天への転換、人間の内面性への自覚を必要としたのである。』
白川静『漢字―生い立ちとその背景』

殷から周へ王朝が変ったあとに起こる変化ですが、これはまさに「初期万葉論/白川静」で描かれた日本における前期万葉と後期万葉の社会の変遷と重なります。前期万葉の呪的な世界から後期万葉の律令的な合理性の世界への変化が、殷から周への変化にも見られると白川さんは指摘しています。
『それはこのような感情の分化が、時代とともに進んで、文字がその必要に応じて、新たに作られてきたからである。卜文には心に従う字がほとんどみえず、金文に至ってもなお20数字を数えるにすぎない。人が神とともにあり、神とともに生きていた時代には、心性の問題はまだ起こりえなかったのであった。』
白川静『漢字―生い立ちとその背景』
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310095 文字の始まり 〜西洋と東洋〜 井上宏 15/12/11 PM05
266591 地球上の言語は文字を伴なわない方が多く、文字を伴なう場合も殆どが借り物である。 岸良造 12/07/16 AM02

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