世界各国の状況
265404 ギリシャのユーロ圏離脱がない地政学的理由
 
新聞会 12/06/13 PM11 【印刷用へ
ヤスの備忘録 歴史と予言のあいだリンクより転載します。
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ロシアの存在、シリアとの関係

いまシリアの内戦との関連でロシアに注目が集まっている。経済制裁と将来的な軍事侵攻を武器に、シリアのアサド政権に退陣を要求するアメリカやEUに対抗して、ロシアと中国はシリアに圧力をかけることを拒否し、アサド政権と反政府組織との間の政治的な協議による問題の解決を主張している。

特にロシアにとってシリアは中東で最大の同盟国であり、シリアのタルトス港にはロシア海軍の基地が存在する。欧米の圧力でアサド政権が崩壊した場合、ロシアの権益が失われるので、介入には反対しているのではないかと言われている。

シリアを失いつつあるロシア

もちろん、ロシアがアサド政権の崩壊を恐れる理由はそれだけではない。アサド政権は人口の13%しかいない少数派のアラウィ派のイスラム勢力が実権を掌握しているが、これに対抗する反政府勢力は、イランに近いシーア派のイスラム原理主義勢力が中心である。アサド政権が崩壊すると、イスラム原理主義勢力が政権の中核となる。

一方、シリアはロシアのイスラム地域に隣接しているため、シリアでイスラム原理主義が活性化すると、ロシアにもイスラム原理主義運動が拡大するのではないかと懸念している。これは中国も同様である。

これは間違いないだろう。しかし、そうではあっても、アサド政権のシリアがロシアの同盟国であり、ロシア海軍の地中海の足場となる海軍基地を提供している意味は大きい。もしアサド政権が崩壊し、シリアにイスラム原理主義政権が樹立されると、ロシアはシリアから放逐され、軍事的な足場を失うことになるのは間違いない。

シリアにかわる同盟国、ギリシャ

将来そのような展開になることは十分にあり得る。そうなると、ロシアは地中海の拠点を失うことになるのかと言えばそうではない。もしギリシャがユーロ圏を離脱した場合、ギリシャがロシアの拠点をなる可能性が非常に高いのだ。

伝統的に、ギリシャとロシアはとても近い関係にある。どちらも宗教はギリシャ聖教だし、ギリシャはロシア製武器の購入ではヨーロッパの中では抜きん出た存在だ。

また、ギリシャにはアレクサンドロポリスからブルガリアのブルガスを通り、ロシアのノボロシースクに向かう石油パイプライン、ならびにロシアからブルガリア、セルビア、そしてギリシャを通るサウス・ストリームと呼ばれる天然ガスパイプラインの重要な拠点ともなっている。

ギリシャは伝統的にトルコと対抗関係にある。したがってギリシャは、ロシアがトルコに対抗して地中海地域の権益を守る拠点になりやすい位置にある。たとえばサウスストリームだが、これは、トルコを経由しロシアを通らないナブッコ・パイプラインに対抗してロシアが建設するパイプラインだ。その拠点のひとつがギリシャになったのも、ロシアとギリシャとのこのような近い関係が背景にあることは間違いない。

さらに、つい最近ギリシャの国営ガス会社である「DEPA」が緊縮財政に伴う民営化の一環としてロシアの天然ガス会社、「ガスプロム」に買収された。これでギリシャのエネルギー供給は全面的にロシアに依存することになった。

ユーロ圏離脱でギリシャはロシアの保護下に入る

このように、ロシアのギリシャに対する経済的、軍事的な影響力は近年高まっている。そのような時期にギリシャがユーロ圏を離脱したらどのようなことが起こるだろうか?

ギリシャのユーロ圏離脱は、ギリシャが旧通貨のドラクマに戻ることを意味する。ドラクマの信用はほとんどないので、相当に低い価値で流通せざるを得ない。このためギリシャ国内では、極端なインフレによる物価高騰により、経済はいま以上に混乱することだろう。

もちろんいずれはドラクマ安による輸出促進効果が期待できる側面はあるにはあるが、これは国内経済の混乱が収まり、正常化した後でなければ現れれないだろう。ギリシャがユーロ圏を離脱すると、当面は国内経済の混乱は避けられない。

このようなとき、ギリシャに最大の金融支援を行い、いわばギリシャのスポンサーになる可能性が一番高いのがロシアである。その引き換えに、ギリシャはロシアにいくつかの港を提供し、ロシア海軍はシリアに代る地中海への拠点を確保することになるかもしれない。

EUはこれを許すのか?

このようなことが現実化すると、ユーロ圏の離脱はロシアに勢力圏を拡大する最大の機会を与えたことになる。ロシアは、ギリシャのみならずスペインやポルトガルにも同じモデルを適用するかもしれない。万が一ギリシャが、ロシア救済モデルで将来的に発展するようなことにでもなれば、他の国々への適用は一層現実的になるだろう。

反対にこれは、ドイツやフランスをはじめとしたEU諸国には、大きな安全保障上の脅威となることは間違いない。ヨーロッパ南部のバルカン半島にロシアの勢力圏が忽然と出現するのである。万が一、ギリシャにロシア製ミサイルが配備されれば、ヨーロッパ全土が射程範囲に入る。もちろんいまは考えられないことだが、情勢の変化によっては将来的に100%あり得ないとは言い切れない。

少なくとも、いま懸念されているような、ギリシャの管理されないパニック型のユーロ圏離脱が起こると、ギリシャはロシアの勢力圏に入る可能性はかなり高くなることだろう。

これはEUにとって、安全保障上なんとしても避けなければならない事態だ。回避するためには、EUはかなりの妥協をしてくると考えた方がよいだろう。したがって、ギリシャのユーロ圏離脱は当面はないと考えたほうが合理的だ。

経済の論理か安全保障の論理か

もちろん経済と金融だけの論理から見ると、ギリシャのユーロ圏離脱は時間の問題のようにも見える。しかし、統一EUの安全保障という観点から見ると、ロシアの勢力圏拡大という異なった意味が見えてくる。

国際社会とは名ばかりで、国際関係は基本的には弱肉強食である。国家の生存のためには経済も安全保障もともに重要だが、経済よりも安全保障のほうが優先順位が高いことは間違いない。安全保障上、ギリシャのユーロ圏離脱が危険だと判断されれば、経済的な合理性を差し置いても、EUはギリシャをユーロ圏に引き留めることだろう。

このような点からも、当面はギリシャのユーロ圏離脱はないと言えるように思う。
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以上です。
 
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302874 ギリシャ、通貨ドラクマ復活・ユーロ圏離脱へ。 洞口海人 15/04/09 PM05

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