生きていることが不安、現在の社会状況への失望と未来への不安。
何もすることが出来ない政治家や、既得権を守ることに汲々としている官僚たち。
やりきれなさと諦め感からか・・・
昨年の311の東日本大震災や原発事故以降、何も出来ない政治家や官僚たちに期待せず、自分たちで何とかしなければ!と現実に立ち向かう人々が増えている一方で、宗教に関心を持つ人も増えているよう(?)です。
実松克義ホームページ 不穏な時代リンクより引用します。
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筆者が教える大学で起きている小さな異変を語ることから始めよう。
最近宗教に関心を持つ学生が増えている。
それも急激に増えているようである。
筆者の比較宗教学の講義、また宗教人類学のゼミには今年度は昨年度の3倍の学生が殺到した。
例年履修者が少ないので、不思議に思って何故だろうと考えてみるが、やはり答えは一つであるように思う。
学生は生きていることが不安なのである。
そしてこの不安は現代日本の危機的な状況を反映していると思われる。
それは現在の社会的状況への失望と未来への不安である。
日本の未来は決して明るくない。もう20年にもわたって日本経済は低迷を続け、また一方では社会の少子高齢化いう構造的な問題があり、こうした不安は以前から感じられていた。
またそれに対して政治家は何もすることが出来ず、また実質的に日本を支配している官僚は既得権を守ることに汲々としている。要するに状況は悪くなるだけで、また何をやってもダメなのだ。そこから来るやりきれなさと諦めがあった。
しかしその不安を決定的なものにしたのが昨年3月11日に起きた東日本大震災である。この天変地異はそれまでの漠然とした不安を一気に形あるものにした。
またそれが引き起こした原子力発電所のメルトダウンは人間が「神を演じること」の恐ろしさを例証した。不安は恐怖へと変わったのである。
それは人間と社会の問題を飛び越えて、その背後にある人間と自然の本質的な関係を浮き彫りにした。
どんなに夢想しようとも人間は自然の中で生きる有限な存在である。現代技術文明は人間をしてあたかも全知全能の神でもあるかのように振舞わせているが、所詮は自然という恐ろしい絶対者の下僕にすぎないのである。
大震災に遭遇した人々はそのことを思い知ったであろう。
学生の不安はこのような情け容赦ない現実、精神的状況を反映しているのかもしれない。
不安に苛まれた人々は救いを求めてさまよい、多くの者が宗教に行き着く。聞くところによれば、日本において最近また危うい教義を持つ新宗教への加入者が増加しているという。オウム真理教による地下鉄サリン事件を契機として、日本社会全体に一種の「宗教嫌悪(宗教フォービア)」とでも言うべき現象が起き、それ以来日本人は宗教と正面から係ることを避ける傾向にあった。
宗教とは怖いものである。それが平均的日本人の正直な感想であった。
しかしそう思うのは一時的な気休めにすぎなかったようだ。
国家の無策のため日本経済はその後下降を続け、社会問題は深刻化するだけで、その糸口さえ見ていない。
問題を解決するためには変革の意思が必要だが、どこを探してもその兆しはない。最も元気な若者ですらそうだ。この十数年間に日本人が行ったのはただ問題の先送りということである。
そしてそれも限界に来ている。そうした中で不安が独り歩きを始め、その結果人々が宗教に走るのは当然のことであろう。
以上の様な状況は日本だけではない。
日本と類似する戦後史を持つアメリカ合衆国においても大きな社会的危機が存在する。
911以降の急速なキリスト教原理主義者、宗教右派の台頭、そして政治参加である。
911はアルカイーダによる単なる同時多発テロではなかった。アメリカにそれまで伏流していたキリスト教原理主義を一気に開花させ増幅してしまったのである。
これらの人々が信奉する教説に、「創造論」、そしてそのヴァリエーションとして「インテリジェント・デザイン説」がある。
創造論は『聖書』、とりわけ『旧約聖書』の『創世記』の記述を真実と信じるものだが、それによれば世界と生命、人間はすべて神が創造したものであり、その意味で地球はわずか5、6千年の歴史しか持っていない。
インテリジェント・デザイン説では神が知的存在としての創造主に置きかえられている。こうした教説は以前から存在したが、あくまで少数意見にすぎなかった。それが911以降ブッシュ政権下で一気に勢力を拡大し、いまやアメリカ・キリスト教の中心的存在となった。
キリスト教原理主義は創造論を説き、神の王国の実現を説くが、同時にまた終末論をも説く。いわゆるハルマゲドン(世界終末思想)である。
ある意味で二度の世界大戦に代表される20世紀はその体現であったとも言えるが、21世紀に入ったいま、それが新たに最も危険な形で復活しているのである。
現代は不穏な時代である。いったい我々はどこに向かっているのだろうか。次にやって来る世界とはどのようなものなのであろうか。
2012年2月1日
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