日本を守るのに、右も左もない
254445 民主主義とは何なのか−2−虚心坦懐に森羅万象の声を聞くとき、事理は自づからに通う
 
11/07/16 PM03 【印刷用へ
『民主主義とは何なのか』長谷川三千子著 文春新書
〈結語〉−理性の復権− 紹介のつづき。
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このような態度は、明らかに「理性的態度」とは正反対のものである。実は、理性とは大声で語ることの内にあるのではない。本当の理性は「よく聞く」ことの内にある。自己を無にし、空にして、他者の声を聞き、森羅万象の声を聞くこと――それこそが理性のはたらきの基本なのである。そして、そのようにして虚心坦懐に事柄そのものの語る声を聞くことができるとき、正しい判断は、いわば事柄の方からやって来る。それは政治的判断においてであれ、何であれ、およそすべての正しく理性的な判断に共通した構造なのである。

そのような理性のはたらきにとって、もっとも妨げになるのは、宗教でも慣習でもなく、不和と敵対である。不和と敵対のあるところでは、人々は、ものごとの声を聞こうとするかわりに自らの耳にぴたりと栓をしてしまう。そして、ただ自己の意思のみを導き手として、大声で「意見」を叫びながらつき進む。しかし、その結果として正しい結論にたどりつく確率は、ちょうど、試験問題を解くのに、問題をまるで見ずにただいきなり答案用紙に○や×をつけていったときの正解率のようなものなのである。

人間はもともと感情の動物であり、また「つぎからつぎへと力をもとめ、死によってのみ消滅する、永久不断の意欲」につき動かされている生き物である。だからこそ、人間のもつもっとも玄妙な機能である理性をはたらかせるためには、意欲や感情による波立ちを抑えて、最良のコンディションを整えておかなければならないのである。

たとえば、あの有名な聖徳太子の十七条窓法の第一条に語られているのも、正しく理性をはたらかせるためにはどうしたらよいのか、という教えである。
「和ぐを以て貴しとし、忤ふること無きを宗とせよ」

多くの人は、この出だしだけを見て、これを単なる「従順に生きよ」という道徳の教えだと思い込んでいる。人によっては、このような「和の伝統」のせいで、日本人は理を通して議論をすることが苦手なのだ、とすら言う。そういう人は、この第一条の後半を一度も読んだことがないのに相違ない。そこには次のように語られているのである――「人皆党有り。亦達る者少し。是を以て、或いは君父に順はず。乍隣里に違ふ。然れども、上和ぎ下睦びて、事を論ふに諧ふときは、事理自づからに通ふ。何事か成らざらむ」。

これはまさに理を通して議論をすることができるためのアドヴァイスそのものである。すなわち、人間は誰しも党派、利害というものがあり、それを超越して達観しうる者は少い。したがって、上の人々にたてついたり、よその集団と対立したりしがちである。しかし、そういう不和、争いを抑制して、上も下もそれぞれむつまじく平静に仲良く論議するならば、「事理自づからに通ふ」というかたちで正しい結論が得られる。そして、このような仕方で正しい結論が得られたときには、何をやっても必らずうまくゆく――この第一条が語っているのは、そういうことなのである。
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