環境破壊
249184 被ばく者は死ぬべき者は全て死に、現在では病人は一人もいない。「アメリカの内部被曝を認めない態度」@
 
志水誠 11/04/10 PM03 【印刷用へ
サイト「き坊の棲みか」のき坊ノート「アメリカの内部被曝を認めない態度」より転載します
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 小論(1.1)の終りに、1968年に日米両政府が国連に提出した「原爆被害報告」は

「被ばく者は死ぬべき者は全て死に、現在では病人は一人もいない。」

というものであったということを、記しておいた。日本政府は、アメリカを頂点とする原子力体制(原水爆および原子力発電と、それらをまかなうウラニウム・ビジネスの国際巨大企業)に完全に包みこまれているので、たんにアメリカ政府の公式見解に追随しているにすぎない。問題は、なぜアメリカ政府が内部被曝を認めない態度をとりつづけるかということにある。

 日本降伏後マッカーサーが厚木飛行場に着いたのが1945年8月30日だったが、その1週間後、ファーレル准将が9月6日に東京帝国ホテルで、連合国の海外特派員に向けて発表した声明は原爆放射能の後障害はありえない。広島・長崎では、死ぬべきものは死んでしまい、9月上旬現在において、原爆放射能のため苦しんでいるものは皆無だ。
というものであった(椎名麻紗枝『原爆犯罪』大月書店1985 p37)。ファーレルは米陸軍の「マンハッタン計画」(原爆製造計画の暗号名)の副責任者であり、原爆放射能の恐ろしさをよく承知していた人物である。

 「マンハッタン計画」の責任者レベルの者たちは、物理学者たちからの情報で原子爆弾とは別に「放射能兵器」がありうることをよく知っていた。(この問題については、「(3.1)放射能物質のバリケード計画」で具体的に触れる。)

 この問題に入る前に、まず、「内部被曝」の症状は個々のひとりひとりの人間について簡単に実証できないこと、この症状は“疫学的な対象”であること、について説明しておかないといけない。この点の理解が十分でないと、単にアメリカ政府や日本政府が「有ることを無いといって欺している」という浅い理解になってしまう。そして、感情的な反発になってしまいがちである。

 最も日常的に定常的に運転されている原発を考えてみよう。
 
 原発はウラン燃料を“燃やして”熱を取りだして、その熱で発電機を回して電気を得ている。ウラン燃料を“燃やす”というのはヒユ的表現で、実際には核分裂が起こっていて、原子核内部のエネルギーが「熱」として現れている。つまり、核分裂の“核”というのは“原子核”のことで、ウランの原子核が幾つかに分裂するのである。その結果できる新たな原子核(もとの核の半分程度の重さになっている)が多くの場合不安定で、放射線を出してより安定な原子核に変化していく。つまり、もともとはウランという重い金属元素一種だったものが、核分裂の反応が起こると極めて多種の元素(200種類を超える同位元素)が原子炉内部にできてくる。それはヒユ的に言えば“燃えかす”であり“灰”である。(誤解のないように付け足しておくが、核分裂の反応がおこることと放射性廃棄物(“灰”)が生じることは同じことを異なる角度から言い表しているのであって、“燃えかす”がでないような原子炉などというものはあり得ないのである。原子炉を運転すれば必然的に放射性廃棄物が生じるのである。)それが恐ろしい放射能をもっているので、それを“死の灰”と言いならわしているのである。公的には(お役所語では)「放射性廃棄物」である。

 原子炉は炉内に生成されてくる放射性物質を閉じこめるために、何重もの蓋があって簡単に放射性物質が外部に出てこないように工夫がなされている。ところが、チェルノブイリ事故のような爆発が起こらない、軽微な破損や操作ミスさえもない、ごく定常的な運転が理想的に行われている状態であっても、この「放射性廃棄物」の一部はどうしても原子炉外部へ出て行かざるを得ない。つかまえるのが難しい元素、クリプトン85(Kr85 半減期10.8年)がその代表的なものである。これは気体として環境に放出され、希ガスなので化合物を作らず(だからつかまえようがない)、しかも、重たいので地表へ沈降してくる点も厄介である。原子力資料情報室のデータ、1988年までしかない古いデータだが、大気中のクリプトン85の濃度が確実に上昇していることは確かめられる。なお、放射性クリプトンは天然には宇宙線によって作られるぐらいでほとんどは核実験と核施設から生じたものである。(したがって、下のグラフは最初はゼロから出発したと考えてよい。中国の核実験も終わった80年代以降の上昇分は、核施設からの排出によるものである。半減期10.8年だから核施設を全部停止すれば、徐々に減少に向かう。)リンク
                  <中略>
 原発に必須の多量の排水の中に水溶性の放射性物質が混入せざるを得ない(トリチウム(三重水素)や炭素14などが心配される)。混入は、原理的にゼロにはできない。なぜなら、化学的にせよ物理的にせよ、放射性物質(廃棄物)をトラップをかけてつかまえるのであるが、完璧に全部の粒子(原子や分子)をつかまえることはできない。ミクロな領域では必ず拡散の法則にしたがって環境へ逃げだす粒子が存在するのである。それをゼロにすることはできない。
これは、理論的に理想的な設計通りの運転が行われている場合のことである。チェック不可能なほどの軽微なヒビや部材の間のユルミ、まして操作ミスや運転ミスなどがあれば、環境へ逃げだす粒子(原子や分子)の数がたちまち何桁か上昇する。それでも「安全基準」からすると問題にならない程度の小さなものである場合が普通である。したがって、原発や官庁が事故の後すぐ“健康に問題有りません”というのは、マニアルどおりにアナウンスしているのであって、ウソをついているのではない。だからこそ問題の根が深いのだ。
 では、マニアルに問題があるのか、ということになる。それはある意味では、その通りである。ICRP勧告などを基準にして公的なマニアルが作られるのだから、「内部被曝」が正当に扱われていなかったりしているのである。

 もう一度言おう。すべての原子力施設からは、最低でも「安全基準」以下の放射性物質が環境に絶えず放出されている。原子力施設につきものの巨大なエントツと排水口から、排気と排水によって、放射性物質が環境に絶えず放出されている。ここでのキーワードは安全基準である。
自然環境にはもともと存在している放射能がある(もちろん、これは本当です)。通常の土壌や岩石にはウラニウムなど自然放射性元素が極微ながら含まれているから、山に行けば自然の放射能レベルが上がる。宇宙からは宇宙線が絶えず降り注いでいて、大気と反応して様々な放射性物質をつくる(例えば炭素14)。それらの自然放射能のレベルよりも低くなるように「安全基準」を定めています、というのが決まり文句である。ここには、ウソはない。しかし、すべての原子力施設からは、放射性物質が環境に絶えず放出されているということも事実である。

Aに続く
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