実現論を塗り重ねてゆく
242512 東胡、モンゴル高原の東方を領域とした狩猟牧畜民族の出自 (3)
 
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 今度は別の角度から「胡」をみてみよう。

 中国中央テレビ局の編纂による『国家地理』のなかに、西遞村に1,100年間も暮らし続けている胡氏家族に関するリポートがある。その一節を紹介しよう。

 『国家地理』中国中央電視台

 胡姓の起源は非常に悠久であり、伝承では「葫蘆(ひょうたん)の内部に天地があり、その葫蘆から人の祖先が生まれた。この葫蘆は普通の葫蘆ではなく、中華民族の始祖とされる華胥氏(妣は女の先祖の意味)のトーテムで、華胥氏は我々の太古の時代の始祖の一人だが、彼女から生まれた子孫は、東胡族、西胡族、南胡族のごとく、すべて胡人と称した。樓胡になって崑崙山に還るが、みんな華胥氏の後裔である。

  鶏子と葫蘆の違いはあるが、これはまさに「盤古神話」である。古代苗族の神話にも葫蘆が登場し、新羅の蘿井伝説では、初代国王の朴赫居世(ボクカクキョセイ)王の朴は瓠(ふくべ=葫蘆)の意味で、卵が葫蘆のように大きかったので、その名にしたとされる。また、金氏の雉林伝説では、倭国から葫蘆を腰にぶら下げてきた大輔瓠公が登場する。

 葫蘆の文字に胡があることから、胡族が西方から伝来したものの一つなのだろう。

  太古、胡人は遊牧をしていたが、特に騎上での射撃が達者で、胡人の作る衣服は動きやすく、非常に戦闘に適していた。黄帝の時代、胡人の作る衣服は胡服と呼ばれた。

 戦国時代には皆が競って胡服を模倣したことから、趙の武霊王は衣服を騎射に適した胡服に改めた。胡人は非凡な知恵をもっていたと見るべきである。

 胡人が居住した地方には皆、胡を地名に付けている。現代地図でも、葫蘆河、壺口、湖丘、胡亭(葫、壺、湖、胡は同音)などがみられる。古代に於いては、諸侯を封じるのは胡の地名の付いた地域であり、?子国(?は胡の古字、子は尊称)と呼ばれた、 (中略)

 楚国に滅ぼされた後は、国名をもって姓としたことから、胡氏と呼ばれるようになる、また別の一族もある。周の武王が殷を滅ぼしたとき、武王は同姓の?胡氏を?子国に封じた。この?子国は後に楚国によって滅ぼされたことから、その子孫は胡に改姓した。

 胡人は漢化以後、大多数が族名を姓としたことから、多くの少数民族が後になって皆、胡氏に改名した。漢族の胡姓を除き、我が国の数多い少数民族のなかにも胡姓があり、現在、全国に千余万人がおり、中国第20位の大姓となっている。

 胡族の多くが漢化し、胡氏という胡姓を名乗ったことがよく理解できる。

 中央アジアの遊牧民族が羊を追って東進し、やがて黄河流域や長江流域に住み着き、生活基盤を定住農耕に転換したのが漢民族の興りとされるが、まさに古代胡族や古代羌族が漢民族の祖の一つであり、異民族というより、新参の移住者と言うべきかもしれない。

 東胡の詳細を示した史料も少なく、これ以上の探求は筆者の手に負えないので、東胡の最後を記しておこう(正史は要約のみ翻訳して本文に編集した)。

『冒頓単于』(〜前174)

 墨毒、墨突とも書く。在位前209〜前174。匈奴屠各種攣?氏の出身。頭曼単于の子。

 頭曼単于(ずまんぜんう)は、太子の冒頓(ぼくとつ)を廃して、末子に単于(国王)を継がせたかったので、冒頓を月氏に人質として送ってから、月氏を襲い、月氏の手で誅殺させようとした。だが、冒頓は月氏の良馬を奪って帰還してきた。

 万騎の指揮官となるや、軍律を徹底して強固な軍隊に成長させ、従わない者を斬り捨てて自分に忠実な軍団を作り上げた。そして、父を狩猟に誘って殺し、父に連なる大臣・諸弟を殺して自立し単于となった。その後の状況が史記に記載されているので要訳する。

『史記』匈奴列伝

 冒頓が王に立ったとき、東胡は強勢だった。冒頓が父を殺して自立したと聞くや、使いを冒頓に派遣して「頭曼の時代に得たという千里馬(名馬)を是非とも欲しい」と要求した。群臣は匈奴の宝だと言って反対したが、冒頓は平然と千里馬を東胡に与えた。すると今度は「冒頓の娘を寄こせ」と要求してきた。左右の重臣らは怒ったが、冒頓は平然と娘を東胡に与えた。さらに驕慢となった東胡王は「土地を寄こせ」と要求した。群臣のなかには「土地を与えるのも可、与えざるもまた可なり」と言う者達がいた。冒頓は大いに怒り「土地とは国家の基盤である。なにゆえこれを与えるのか」と言って、彼らを斬り殺した。

 
 冒頓は軍馬に乗り、国中に出動を命じ、遅参する者を斬った。遂に東の東胡を襲撃した。東胡も初めは冒頓を軽んじ戦備をしなかった。冒頓の軍隊が到着し、東胡を攻撃、東胡軍を大破し、東胡王を撃滅して、東胡の民と家畜を捕獲した。

 冒頓は国に帰還すると、西方の月氏を攻撃して逃走させ、オルドスに侵入して楼煩と白羊河南王を併合した。燕の代国に侵攻し、秦が蒙恬を派遣して匈奴から奪い取った土地をことごとく回収し、(劉邦の)漢を昔の河南長城で塞き止め、朝那、膚施に到って燕と代を侵略した。漢が兵を挙げ項羽と覇権を争う間に、冒頓は三十余万の兵力をもった。

  著者の司馬遷も漢王朝の官吏なので、劉邦の敗戦に関する記述を省略しているが、実際には、漢王劉邦の軍勢を白頭山で撃破して屈伏させ、漢王朝に歳貢の義務を課し、劉邦が亡くなると、呂太后に無礼な親書を送って辱めたという。

 烏孫・楼蘭ほか西域の二十六カ国を平定し、東西交易路の商業権を掌握した。匈奴の最盛期を誕生させた単于である。

 東胡はというと、東胡も匈奴に従属し、毎年大量の絹を献上することになり、匈奴の立てた東胡王を支配者として迎える植民地となった。ただ、その一部は大興安嶺に逃れ、鮮卑山と烏桓山に拠って、各々に鮮卑、烏桓として自立したとも言われる。

  漢王朝の元勲で、親子二代の親友でもある燕王「盧綰」が漢に叛いた陳?と通謀していたとの密告があり、高祖(劉邦)は樊?と周勃に盧綰を討伐させ、劉建を燕王に立てた。

 紀元前195年、盧綰は高祖が崩じたと聞くや、匈奴に亡命して冒頓単于から東胡王に任じられたが、その後すぐに病死した。この盧綰の事件で、燕にいた「満」は千余の兵を連れて東方に脱出。箕子朝鮮を打倒し、王険(平壌)に都を築き、衛氏朝鮮を立てる。

  後漢時代、強大になった鮮卑族によって匈奴は駆逐され、中国北方は全土が鮮卑の領域となり、同時に東胡も歴史から消えた。おそらく烏桓か鮮卑族に吸収されたのだろう。
 
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