『書評 鬼塚英昭著『ロスチャイルドと共産中国が2012年、世界マネー覇権を共有する』(成甲書房) 』(吉田祐二氏)リンクより転載します。
----------------------------------------------------------------
〜前略〜
鬼塚氏は、『八百長恐慌』では恐慌を演出した犯人をイギリス・シティに巣食うロスチャイルドおよび「イギリス貴族」であるとしている。その結論によって、いつもながら、本書は一般的な読者からは「陰謀論」であると一言で片付けられてしまうのだろう。それは仕方ない。
「陰謀論」といっても、フリーメイソンやイルミナティといった「謎の秘密結社」系を極北として、ロックフェラーやロスチャイルドといった実在の富豪を元凶とみなすものまで、幅が広い。
鬼塚氏は、そのなかでもフリーメイソンやイルミナティなどは否定しているようである。そして、鬼塚氏は強固な「ロスチャイルドが元凶」論者であることが『八百長恐慌』を読むと分かる。そしてその具体的な操作方法は中央銀行、アメリカならば連邦準備銀行(FRB)によってなされる、というところも陰謀論としては典型的な枠組みをとっているといえる。
私見だが、日本における「正統な」陰謀論はみなロスチャイルド系である。それに「ユダヤ人の」が付いているとなお良い。それは、何といっても今年5月に亡くなった太田龍(おおたりゅう、1930〜2009年)氏の影響が大きいのだろう。故・太田竜氏と、その周りの協力者による一連の仕事が、日本における陰謀論の系譜の主流となったのだ。
また、反原発左翼の立場から広瀬隆(ひろせたかし、1943年〜)もロスチャイルド元凶論者である。初期の『億万長者はハリウッドを殺す』(講談社)においては、ロックフェラーやモルガン財閥について論じていたのだが。
そのため、ロスチャイルドではなくロックフェラー系の勢力が大きいと論じるのは、上記のような日本の「正統な」陰謀論の系譜から行くと「異端」になるらしい。拙著『日銀 円の王権』に寄せられた批判のなかでも、ロックフェラーはロスチャイルドの手下に過ぎない、と批判しているものがあった。
しかしながら、太田龍をさらに遡(さかのぼ)ると馬野周二(うまのしゅうじ、1921年〜)の仕事に行き着く。そして、戦前にあったユダヤ研究を除外すれば、馬野周二から日本における陰謀論の系譜である、ロスチャイルド、ロックフェラー、そして秘密結社の各思想が日本に「輸入」されたのである。
だからロスチャイルドもロックフェラーも秘密結社も、日本においては実は対等な、フラットな序列のはずなのである。そのなかでどこに重点を置くかは極端に言えば、視点の違い、著者の好みといってよい。日本における陰謀論の分野は、遡ってみてもせいぜい1980年以降のことだ。分野(ジャンル)としては新しいと言ってよい。
上記は、あくまでも筆者の理解である。実際は違う、もっと複雑で深いのだという意見もあるかもしれないが、とりあえず筆者は上記のように捉えている。
それではどのように考えるのが正解なのかというと、私が『日銀 円の王権』に書いたとおりだが、秘密結社のような正体不明のものは除外すべきであり ロスチャイルドやロックフェラーという確かに実在する財閥を中心にして「モデル」として捉えるのが正解だろう。
実在する、歴史を動かす要因である人物や企業を、それぞれ個別に把握するのは困難である。それは量的に困難であるし、文献も限られたものであるという制約があるからである。そこで、「作業仮説」として、この人物は何々系、この企業は何々系とそれぞれ仮に分類する。そして大きく括られたグループをさらに何々系と整理していく。
その結果、いちばん大きな括りとしてロスチャイルドやロックフェラーになる場合もあれば、また別のグループとして括ることも出来るだろう。問題は、その括り方ではなく、そうしたモデルによってより良く事象を説明できるのは、あるいはより正確な予測ができるのは、どのモデルなのかということなのである。
〜後略〜
---------------------------------------------------------------- |
|