213092の続き。日経新聞8/13記事「人類の戦争の起源」より引用。
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同じ祖先を持つ親族の規模は拡大する。
「親族が膨張した結果できあがる究極の形が民族です。民族には始祖神話があり、語り継がれる。そういったものが核となり、民族の理念が確立され、敵対する民族が出現すれば、多くのメンバーが戦いにかり出されるのです」
攻撃本能起源説は戦勝国を擁護するもので、誤り
戦争の起源については、過去にも多くの学者が論じてきた。精神医学者のフロイトは1932年、科学者のアインシュタインとの往復書簡で「人間の心には破壊し殺害しようとする攻撃的本能が潜む」と述べた。動物行動学者のローレンツは63年「攻撃――悪の自然誌」に「人間は武器を発達させたために、攻撃行動の抑止機構を進化させないまま戦いを拡大してしまった」とつづった。
「フロイトの説も、ローレンツの説も誤りです。ある意味で、戦勝国を擁護する学説です。戦争の原因は、人間の攻撃本能にあるのではなく、先に述べたように共同体の中で作り上げてきた人間固有の社会性に潜んでいるのです」
戦争を防ぐにはどうすればいいのだろうか。
「国と国、民族と民族、集団と集団の利害対立が生まれたとき、国や民族、集団への帰属意識や奉仕、共感といったものが戦争を引き起こす。そのことを、多くの人が冷静に自覚することが大切だと思います。だから紛争が生まれたら、双方の面目を保つ道を根気よく探り出すことも欠かせません」
集団間の境界を超えた帰属意識を、多くの人が持つことも重要になる。
「例えば、89年に起きたベルリンの壁の崩壊は、境界を超えた市民意識がもたらしたもので、東西の冷戦を終結させた。スポーツの世界や非政府組織(NGO)活動の現場レベルでも国境を超えた人と人との交流として活発に展開しています。人間が日常的に、国や民族のボーダーを超えて出入りしていれば、外国や他民族の他者への許容性は自然に高められるはずです」
太平洋戦争のときのように、気がついたら国全体が戦争への坂道を転がり落ちていたというような事態は避けたい。山極さんの話から、われわれ市民が学ぶべきは、まず愛国心や民族愛を巧みに操って戦争へと導こうとする為政者に目を光らせ、選挙などで早めに彼らの芽を摘むことであろうか。
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(引用以上)
人類の戦争の原因が、従来から語られてきた単純な動物の攻撃本能説ではなく、「言葉」(=観念)、「土地の所有」(=私権意識)が発現したことの影響が大きいとしている点は首肯できる。また、人類固有の民族意識(観念)を利用して、支配者や為政者が戦争へ導くという部分は、現在の金貸し支配による戦争の発生構造にも通じる見方であろう。
しかし、なぜ私権意識が発生したのか?また、人類の命綱でもあった筈の共同体性がなぜ、山極氏の言う「死者の利用」という戦争の原因と化してしまったのかまでは迫れていない(これは、なんでや劇場で分析された“自集団の正当化観念→守護神信仰の成立”そのものであろう)。そのため、戦争回避の方策が、「集団間の境界を超えた帰属意識が重要」という風に、単に集団・共同体否定の論調になってしまっている。これでは、やはり金貸し等、支配勢力の推進する国際主義や個人主義等の騙し観念に絡め取られ、結果として戦争の根絶からは逆行してしまいかねない。
サル・人類学におけるさらなる追究が待たれる。 |
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