市場は環境を守れない、社会を統合できない
203126 ロシア金融危機下でも衰えない消費ブーム
 
雲渓 ( 京都 ) 09/03/29 PM05 【印刷用へ
一夜にして資産価値が1/4まで下落した'90年代大混乱を経験し、そのトラウマを残すロシア市民は、近年の経済繁栄を持続的なものとは捉えず「金はあるうちに使ってしまえ」という流れの中で、近年、消費ブームを形成しています。

井本氏のロシア見聞を通じそのあたりの実態に迫りたいと思います。


NIKKEI NET 井本沙織のロシア見聞録より
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「ショッピングに夢中のロシア人」(2009/03/13)

■大型ショッピングモールで大量の消費
 ロシア統計局によれば、今年1月のほとんどのマクロ経済指数はマイナスになった。上がってほしくないものだが、インフレ率と失業率は上昇が止まらない。小売業の売上高が伸びているという数字も発表された。経済が低迷しているなか、銀行が個人向け融資をほとんど中止している状態になっても消費が増え続けていることは興味深い話である。消費はロシアのGDPにおいて50%を占めており、ここ数年にわたって好景気を支えていた、という見方が一般的であった。しかし、輸入品でいっぱいになっているスーパーマーケットの棚を眺めると、高インフレから逃げ場を探して消費する家計、経済の冷え込みによって将来への不安という強いブレーキーがかかっても、大型トラックのようにすぐには止まれない消費ムードは、本当にロシア経済を危機から救い出してくれるだろうか。疑問が残る。
・・・(中略)・・・

■どうして消費が衰えしらずなのか?
 一つの理由は、消費ブームに浸っていた気分がすぐには冷めないことにあると思う。つまり人は状況が変ってもすぐには行動パターンを変えない、あるいは変えられないのだ。生活レベルを急に下げられないからである。
 
 そしてもう一つは高いインフレ率の影響である。安くなっていくルーブルを(インフレで値段が上がっていく)家電などのモノに換えて使ってしまおうという気分が強まっているようだ。
 
 金融危機が実体経済への影響を及ぼし始めた昨年秋には、WCIOM社(全ロシア世論調査センター)の調査結果(2008年11月6日発表)によれば、10月中旬から11月にかけて71%の人はスーパーマーケットの品ぞろえが少なくなったようには見えないと答えた。つまり状況が変わっていないと答えた人が大多数であった。
 
 09年1月26日に発表された調査は08年のロシア人の消費行動状況を明らかにしている。昨年の一番大きな消費とは「住宅のリフォーム」(回答者の15%)である。日本ではあまり馴染みがないが、ロシア人は住宅をリフォームするのが大好きである。私の幼いころの記憶のなかでは、両親と一緒に暮らした家の壁紙がほぼ毎年張り替えられていた。08年1月時点の調査では回答者の24%が住宅リフォームの計画を立てていたが、実際にリフォームを実施したのは回答者の15%なのである。しかし違う消費を見ると、まだまだ衰えしらず。携帯電話を買う予定とした人は6%であったの対して、実際に買ったのは3ポイント高い9%なのである。自動車も同じように、計画した人(6%)より実際に購入した人の割合が上がった(7%)。洗濯機、冷蔵庫などの家電の場合にも、消費の増加傾向が見られた。こういった傾向には、収束しない高いインフレへの懸念が見え隠れしている。消費についての回答の中には節約意識を反映した項目もあった。それは教育費とパソコン購入、そしてスポーツクラブの入会費が低下していることを示した回答であった。
 
 しかし全体的に見れば、この数年間続いたロシア人の消費ブームのほろ酔いがまださめていない。経済有力紙の『ベドモヅチ』(09年2月26日、電子版)によれば、ロシアの大手スーパーマーケットチェーン「ディクシ」の1月の売上高は前年同月比25%増。同じく大手スーパーマーケットチェーンである「マグニット」は42%上昇したのである。
 
 けれどほとんど輸入品で埋めつくされているロシアの小売業界の堅調な実績は経済危機からの回復にどこまで役に立つかは疑問である。
・・・(中略)・・・

■銀行は不良債権化の危機に直面
 ロシア銀行は今年初めて不良債権化の本当の恐ろしさを知ることになる、というロシアの専門家がいる。経済が速いペースで伸びていたときにロシアの銀行は、特に個人に対する融資を積極的に増やしていた。毎年給料が伸びていた会社員は、男性も女性も深く考えずに、銀行の口説きとバブルな雰囲気にのせられて借金を絶えず増やしていたのである。ロシアの銀行では不良債権は今までも発生していたが、ほとんどの場合には「返せない」というより「返さない」、つまり詐欺まがいの行動により生まれた不良債権なのであった。銀行側はこの損失を数十パーセントの非常に高い金利で補っていたのである。当時、銀行にとっては幸いなことに高い金利でも借りてもいいと思う人がいたのである。しかしこれからは違う。給料がカットされた人、仕事を失った人は借金を返せなくなる。それに、不良債権による損失を穴埋めできる高い金利で借りる人はもういない。
 
 私は先日、モスクワに住む会社社長の友だちに電話をした。彼は借金を返せなくなった秘書からの相談について語りながら銀行を責めていた。私も何度か会ったことのある彼の秘書は30代半ばでとても可愛らしい。そして、勤勉な女性のKさんである。Kさんの給料は2万ルーブルで、結婚して夫と息子の3人暮らし。夫の給料は6万ルーブルであった。彼女は銀行に勧められて車を2台購入するほどの華やかな生活を送っていた。車は2台ともローンで購入した。そして今の借金総額は250万ルーブルにまで膨らんで、貯金はゼロという深刻な状況である。借金が大きくなった理由は急激なルーブル安にある。ルーブル建てより安い金利のドル建てのローンは、40%のルーブル安になってから返済がとても苦しくなった。夫の会社の経営は行き詰まり気味で、一家の大黒柱が失業する可能性が出てきたという。
 
 彼の話を聞いて、こうして銀行資産は不良債権化していくのだと私は思った。不良債権化も経営不振も「銀行の自業自得だ」と彼が言う。それはそうなのかもしれない。好景気に酔って高金利の個人向けローンに夢中になっていた銀行の非が大きいだろう。けれど借りた側にも意識を改める必要があるのではないと思う。それは自分のためになると同時に国のためにもなるはずだ。
 
 なぜなら海外からの資金に大きく頼ってきたロシアの銀行セクターにはこれから厳しい時代が待ち受けている。当てにされている国の財政がすべての銀行のラストリゾートになることも期待できない。経済を助けるためには、どうしても「預金する」国民の意思が必要である。当たり前の話だけど。・・・(引用終わり)

3人家族の給料が8万ルーブルで31倍強の250万ルーブルもの借金があるのは怖いというより異常です。金融破綻の経験をし自国通貨であるルーブルへの信頼は依然として低く、「金は使ったもの勝ち」であるという状況にロシア市民は置かれているようです。

また、社会主義を経験したロシア市民でさえ、一旦過剰消費を経験すれば、快美の毒に犯されてしまう宿命にあるとも思えます。
 
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