科学者って、どこかおかしくない?
192674 人体部品ビジネス  ヘンリー・ハンスマンの『アメリカにおける移植用臓器マーケット論』2/2
 
奥村博己 ( 47 京都 農業 ) 08/11/19 PM01 【印刷用へ
アメリカの経済学者、ヘンリー・ハンスマンの『アメリカにおける移植用臓器マーケット論』を今井竜也氏が紹介しています。
リンクのつづきです。

3.生体臓器の場合
生体ドナーから摘出される臓器というのは、一般的には腎臓を指す。ここでも、それを前提として論が進められている。

1)移植における生体臓器と対価支払いの利点
 腎臓移植においては、死体署より生体腎の方が有用であるとハンスマンは言い、その理由として以下の2つを挙げる。

 1つは、潜在的な生体ドナーが社会に相当数プールされていれば、供給が限られている死体管よりも、レシピエントとの組織適合,性が高い腎臓が得られる可能性が高いこと、もう1つは、死体腎の提供を待っていては、移植を受ける絶好のタイミングを逸してしまう場合があるが、生体腎ならドナー、レシピエント双方の健康状態を見ながら、最も良いタイミングを見計らって摘出、移植に踏み切ることが出来るということである。
 また、自分の腎臓を1つ売るという選択は、その価格がある程度高額でるならば、合理的な決定と言えるかもしれないとさえハンスマンは言う。その理由として、腎臓の提供は、ドナーの健康に甚大な影響を及ぼすものでない7)と一般に言われていることと、人はよりよい生活をするために腎臓を,つ提供することで被るかも知れない程度のリスクを、自らの合理的判断で進んで背負いさえするではないか、ということを指摘する。

 2)バターナリズムの観点からの反対意見をどう考えるか
 ところがこのような考え方には、パターナリズムの観点からこのような批判意見があるとハンスマンは指摘する。生体臓器のマーケットが設立されれば、そこでの主たる売り手は貧困層が占めることになり、それは結局、富裕層のために貧困層の臓器を搾取するシステムになりかねない。
 それに対しては、このような反論があるとハンスマンは続ける。臓器を売りたいと思う人間は、自分の腎臓を2つ維持することで、死や病気にかかるリスクをほんの少し下げるよりも、金銭を得たいと思っており、社会が、彼ら貧困層に腎臓を売りたいという気を起こさせないために臓器売買を禁止するというのは、貧困者に、自分の持っている交換価値のある所有物である腎臓を売ることを許さないというおかしな論理である。
 ハンスマンは、後者の反論意見についてこう指摘する。腎臓を売るという決定は、自分の交換価値のある所有物を売るという決定と違い、不可逆的な1度のみの決定であって、同じ「売る」という決定であっても、その決定を後'海する可能性は前者の方が高い。また、経済的動機を優先させるあまり、後先を考えずに決定をなし、後に後I海するであろう人間も出てくるかもしれぬゆえ、そういう先見の明のない取引に対する保護は必要であろう。
 その保護規定についてハンスマンは具体的に以下のような提言をしている。
 「売り手は25歳以上で、内科医およびソーシャルワーカーの診断を受
  け、かつその臓器を購入する機関とは無関係の諮問専門委員団
  (consultativepanel)の認定を受けなければならない。その価格は
  決められた最低額を下回ってはならず、かつ売買契約には、残った
  1つの腎臓が悪くなったら、随意に腎臓の移植が受けられるというこ
  とを保証する傷害保険を含むものとする」

このような形で生体腎の取引がなされ、移植に利用出来る臓器の実質的増加となるなら、貧困層にとってはきわめて有益であり、彼らに対する搾取に繋がるがゆえに生体ドナーからの臓器の購入を禁じるというのは、理由としては十分でない。
 発展途上国からの搾取にも繋がるという問題については、アメリカ国内やヨーロッパ等の先進国の人間からのみ臓器を購入することが出来るという規定を作れば、そういう類の搾取を無くし得る、とハンスマンは言う。

3)臓器の商品化の問題をどう考えるか
 もう1つの有力な反対意見として、臓器売買はそれが臓器の商品化に繋がり得るゆえに禁止すべきというものがある。
 その意見についてハンスマンはこう指摘する。商品化が何を意味するのかとか、なにゆえそれが望ましくないのかについて、正確に言明するのは困難である。そして、以下のような例を持ち出して商品化の問題について言及している。
 かつて、生体からの腎臓提供が市場外の領域に入っていて、腎臓が商品としては扱われてこなかったのは、そこに家族関係というものが含まれていたからだ。免疫抑制剤の開発以前には、ドナーとレシピエントとの適合’性が極めて密接でなければ移植は難しく、したがって、家族内の生体ドナーからの移植が、もっとも成功率が高かった。また、このような家族内での臓器提供に、マーケットにおけるような自己利益計算を持ち込むのは不適当だと私たちは社会に教化されてきたのだ。
 しかし、免疫抑制剤の開発により、無関係な個人間の移植というものが比較的安全に行われるようになり、家族内提供の必要性は実質的に下がってきている。このような技術的進歩が、従来、市場外取引であった生体腎の提供を、市場取引へと再編成させる機会になる。
 たとえば年配者介護や結婚の仲介なども、今や業者がそれを行うことに私たちは!慣れきっている。精子バンクなども、かつて強い倫理的抵抗に晒されたものの、我々は時とともに自らの倫理的規範を変容させ、それを受け入れることが出来た。
 臓器のマーケットが設立できる状況であるから、そのようなマーケットがないことを補う何らかの政策を実施した上で、マーケットの設立を禁止するというならともかく、マーケットが設立できる状況下にないうちから、それを禁止する必要はなかったのだ、とハンスマンは言う。
 以上の考察からハンスマンは、移植可能な臓器への対価の支払いの禁止というものは正当化し難く、移植を必要としている多くの人間のためにも、ここで提唱した計画の実施について、これを追求する価値はあると思われると結論付けている。

引用以上
 
  List
  この記事は 192132 への返信です。
  この記事に対するトラックバックURL  http://www.rui.jp/tb/tb.php/msg_192674
  ※トラックバックは承認制となっています。

[過去の記事へ]
[一覧へ戻る] [新しい記事へ]


◆実現論本文を公開しています。
 実現論 : 序  文
 第一部 : 前  史
 第二部 : 私権時代
 第三部 : 市場時代
 第四部 : 場の転換
 参考文献

 必読記事一覧
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28
大転換期の予感と事実の追求
実現論の形成過程
自考のススメ1.未知なる世界への収束と自考(1)
自考のススメ1.未知なる世界への収束と自考(2)
自考のススメ1.未知なる世界への収束と自考(3)
自考のススメ1.未知なる世界への収束と自考(4)
自考のススメ2.現代の不整合な世界(問題事象)(1)
自考のススメ2.現代の不整合な世界(問題事象)(2)
自考のススメ2.現代の不整合な世界(問題事象)(3)
自考のススメ3.自考力の時代⇒「少年よ、大志を抱け」(1)
自考のススメ3.自考力の時代⇒「少年よ、大志を抱け」(2)
1.これから生き残る企業に求められる能力は?
2.私権圧力と過剰刺激が物欲を肥大させた
3.市場の縮小と根源回帰の大潮流
4.共認回帰による活力の再生→共認収束の大潮流
5.自我と遊びを終息させた’02年の収束不全
6.同類探索の引力が、期応収束を課題収束に上昇させた
7.情報中毒による追求力の異常な低下とその突破口
8.大衆支配のための観念と、観念支配による滅亡の危機
9.新理論が登場してこない理由1 近代観念は共認収束に蓋をする閉塞の元凶となった
10.新理論が登場してこない理由2 専門家は根本追求に向かえない
11.学校教育とマスコミによる徹底した観念支配と、その突破口(否定の論理から実現の論理への転換)
12.理論収束の実現基盤と突破口(必要なのは、実現構造を読み解く史的実現論)
近代思想が招いた市場社会の崩壊の危機
新理論を生み出すのは、専門家ではない普通の生産者
現実に社会を動かしてきた中核勢力
私権時代から共認時代への大転換
市民運動という騙し(社会運動が社会を変えられなかった理由)
民主主義という騙し:民主主義は自我の暴走装置である
統合階級の暴走で失われた40年
大衆に逆行して、偽ニッチの罠に嵌った試験エリートたち
新理論の構築をどう進めてゆくか

『るいネット』は、47年の実績を持つ起業家集団・類グループが管理・運営しています。るいネットワーク事務局(Tel:0120-408-333, E-mail:member@rui.ne.jp