オキシトシンが、母と子を結ぶホルモンであるという基礎的事実を18243で述べました。端野さんが18269で言われたような子供誘発のホルモンかどうかは微妙…。私は、未熟な生命体である人類の赤ん坊に、オキシトシンの分泌を促す機能が備わっているという見方は少し首を傾げますが…(でも発想は面白い)。
それはさておき、端野さんの「つわり」もそうかも知れませんが、いずれにしろ体内保育という難課題(生命体同士が接触するというのはきわめて困難な状況を生み出す。免疫系が攻撃しても不思議ではない)に対して、オキシトシンの持つ本質的働きは、二つ(二人)をしっかりと結び付ける(密着作用)ということとも思ったのですが…。そうすると、少し矛盾が起こります。
分娩(子離れ)の際に働くのが腑に落ちなくなります。黄体ホルモン(着床や妊娠の維持作用を持つ雌性ホルモンの一種)が多量に存在するときは、オキシトシンは子宮の収縮に対して作用を起しません。妊娠維持の必要性が薄れたときに、オキシトシンは作用します。密着作用というよりも解離作用と言うほうが適切。「子離れ促進」と捉えれば、授乳は離乳を促進するためとも言える(今でこそミルクを飲む子供が多いが、昔はなかった)ので、何とか共通の意味あいを持つのですが、もう少し引っかかる…。
そもそも、なんでオキシトシン脳内にも神経伝達物質として存在するのか、男にもあるのか…?
この問題を考えるのに、オキシトシンを脳内に投与したときの行動促進について少し触れます。(参考:『脳と性』下河内稔:朝倉書店)
「処女ラットの卵巣を摘除し、エストラジオール(いわゆる一番強烈な女性ホルモン)を注射した48時間後、側脳室にオキシトシンを注入し、養子に対する養育行動を観察する。すると、(短時間ではあるが)顕著な養育行動が促進される。エストラジオール単独・オキシトシン単独では養育行動は促進されない。」
つまり、オキシトシンのひとつの役割として、「養育行動促進の開始ホルモン」の意味があると考えられそうです。
「オキシトシンを脳室内に投与すると、ロードーシス行動が増加する。オキシトシンを視床下部腹内側核に植え込んだときにも同様の促進が見れるので、オキシトシンはこの部位に作用して効果を発揮すると考えられている。」視床下部腹内側核は性回路の通り道、満腹中枢のあるところなので、オキシトシンと性行動との強い関係を示唆します。
確かに生物は少ない物質を多様に使用してきたという事実はあるのですが、ここで改めて前回触れた点。つまり、哺乳類以前の軟体動物や他の脊椎動物にも類似物質が見られる、という点に注目すれば、オキシトシン(源オキシトシン)は、哺乳とは関係ない働きをもっていたという当たり前のことに気づきます。ラットは人類に直結する哺乳類なので、脳内のオキシトシンの働きが後天的なのか先天的働きなのかはこれだけではわかりませんが…。子供と密着・異性と密着という一見対立するように見える行為(性情動物質と育児物質はサル・チンパンジーでは対立するはずですが…)の共通に働くというホルモンの姿が見えてきます。
子供も異性も、同じ同類であり、しかもいずれも庇護する対象です。そう考えれば、メスにもオスにも他の動物にも脳内に存在する理由がわかります。これは親和というよりも、集団として(種として)同類をつなぎとめる物質、集団本能(≒追従本能)に近い位置にある物質なのでしょう。親子の物質というより集団の物質…これ(源オキシトシン)が、やがて哺乳のための(親子親和物質)として、使われていったのではないでしょうか。先ほどの分娩は同類の誕生を促しているのでしょう。
そしてやがてそれはさらに、原猿の段階で仲間への親和物質オキシトシンとして再生されたように思います。
源オキシトシン→オキシトシンの中で、追従→親子親和→仲間親和の流れでしょうか。 |
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