生物の起源と歴史
157872 生殖細胞の全能性
 
匿名希望 07/07/29 AM10 【印刷用へ
有性生殖の生物個体は一個の受精卵から生まれる。そこからあらゆる体細胞が分化し、生命維持を支える器官を形成する。体細胞は一代限りだが、その源となる生殖細胞は次世代へ遺伝情報を受け継ぎ「種の保存」を実現している。

この生殖細胞の「全能性」はどのような仕組みで成立しているのか?
興味深い記事があったので紹介します。

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『生殖細胞の起源と特性:全能性の謎に迫る』
斎藤通紀氏の研究紹介記事 理研ニュース2005年11月より
リンク 

多細胞生物の細胞は、生殖細胞と体細胞に分けられる。生殖細胞とは、卵や精子、あるいは、それらをつくり出す源となる細胞である。生殖細胞以外の、体をつくるあらゆる細胞が、体細胞である。体細胞は、どの種類の細胞へ分化するかその運命がいったん決まってしまうと、それを変えることはほとんどなく、与えられた特定の機能を果たし、やがて死滅する。あらゆる種類の細胞に分化して、次の世代をつくる全能性を持つのは、卵と精子が融合した受精卵だけである。生殖細胞はどのようにしてこの全能性をその発生過程で獲得するのか。
<略>


●哺乳類の生殖細胞の起源
生殖細胞がなくても個体は生存できる。しかし、遺伝情報を祖先から受け継ぎ、子孫へ伝えることができるのは生殖細胞だけだ。「なぜ生殖細胞には次の世代をつくる全能性があるのか。その生殖細胞はどのようなメカニズムでつくられるのか。生殖細胞には、ゲノムの全能力を引き出す秘密が隠されています。それを知りたいのです」と斎藤チームリーダーは研究テーマを説明する。

生殖細胞のつくられ方は、例えばカエルやショウジョウバエと、哺乳類では異なる。カエルなどの卵の中には、生殖細胞を生み出すための「生殖顆粒」と呼ばれる構造があらかじめ含まれている。卵は受精すると細胞分裂を繰り返し、さまざまな種類の体細胞へと分化していくが、生殖顆粒を含む細胞だけは生殖細胞へと分化していく。生殖顆粒には体細胞への分化に必要な遺伝子の発現を抑える働きがあり、それを含む細胞は受精卵が持つ全能性を潜在的に保ったまま生殖細胞へと分化していくのだ。

一方、マウスやヒトなど哺乳類の卵には生殖顆粒は存在しない。マウスの場合、受精後3.5日に胚盤胞という状態になる。胚盤胞の外側の細胞(栄養外胚葉)は胎盤など胎児の成長を支える組織となり、内側の細胞(内部細胞塊)が胎児の体となる。この内部細胞塊の一つ一つの細胞はいずれも、あらゆる種類の細胞に分化できる多分化能を持っている。内部細胞塊の細胞群は体細胞へと分化を始めるが、やがて一部の細胞が体細胞化への道を外れ、生殖細胞へ分化する。では、体細胞と生殖細胞の運命の分かれ道は、どのようにして決まるのか。
<略>

その重要なポイントは、体細胞で発現している遺伝子群の特異的な抑制である。体細胞の性質を決める「ホックス遺伝子群」が、始原生殖細胞では完全に抑制されているのだ。
<略>


●遺伝子発現を制御するマーク
体細胞も生殖細胞も、すべての遺伝情報であるゲノムを持っている。では、なぜ生殖細胞だけがさまざまな細胞へ分化し、次の世代をつくる全能性を獲得できるのか。体細胞と生殖細胞では何が違うのか。その大きな違いは、ゲノム上に付けられている遺伝子発現をコントロールする“マーク”の付き方だと考えられる。

ゲノムに付くマークには、大きく分けて2種類が知られている。一つは、DNAにある塩基の一種であるシトシンにメチル基が付く「DNAのメチル化」。もう一つは、DNAが巻き付くヒストンというタンパク質がメチル化やアセチル化される「ヒストン修飾」である。DNAのメチル化では、遺伝子発現のスイッチとなる領域(プロモーターなど)がメチル化されることで、スイッチが入りにくくなる。ヒストン修飾は、ヒストンのどの部分がメチル化・アセチル化されるかなどによって、スイッチの入りやすさ、遺伝子発現の抑制の度合いに違いが表れる。ある種の刺激があるとすぐに遺伝子が発現するマークもある。
<略>


●マークを再編集して全能性を獲得
斎藤チームリーダーらは、生殖細胞の中でゲノム上のマークがどのように変化するのかを詳しく調べている。受精のための特殊な細胞である卵子や精子には、それぞれに必要なマークが付いている。

しかし受精後、そのマークが取られていき、3.5日目の胚盤胞期でゲノム全体のDNAメチル化の相対量は最低の状態になる。ただしゲノムインプリンティングのマークだけは胚盤胞でも消えない。その後、体細胞へと分化していくにつれてマークが増えていく。体細胞に分化した細胞では、ゲノムインプリンティングのマークは生涯にわたり消えない。
「体細胞では、分化していく過程で、例えば神経細胞の中で筋肉細胞の遺伝子が働かないように、不要な遺伝子には発現を強く抑制するマークがたくさん付いていきます。だから体細胞はさまざまな細胞には分化できないのです」

しかしBlimp1が発現し生殖細胞の形成がほぼ完了する8.0日目以降、生殖細胞では抑制性のマークが再び消えていくことを、研修生の関由行さんが発見した。「生殖細胞の中でだけ、ゲノム上に付いた通常は安定であるはずの抑制性のマークがきれいに消され、ゲノムは初期化されて“新品”の状態になるのです。その後、初期胚や内部細胞塊に特徴的なマークが付くことが分かりました」。

このようなゲノム上のマークの初期化と再編集によって、生殖細胞は全能性を獲得すると考えられる。
<略>

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