生物学を切開する
150110 ドーキンスの「利己的な遺伝子」を読んだことがない初心者向けの書評
 
かなめんた ( えどっこ ) 07/04/23 PM11 【印刷用へ
ドーキンス(イギリス人1941年生まれで、現在66歳)の「利己的な遺伝子」(1976年発表)。普通の人はあまり読んだことがないだろう。

松岡正剛氏の書評がわかりやすく解説しているので少し長くなるが紹介する。
リンク「松岡正剛の千夜千冊」より

>ドーキンスは冒頭で「この本はサイエンス・フィクションのように読んでもらいたい」と書いた。科学書だがイマジネーションに訴えるように書いたからだという。たしかにこの本はSFっぽい。<

>SFっぽいけれど、ちゃんとした遺伝子論なのかというと、そういうことでもない。まだこの本を読んでいない読者のために言っておくけれど、この本はDNAやRNAにまつわる遺伝子の究極のドラマについては、ほとんど何の説明もしていないのだ。何が書いてあるかというと、ドーキンスが動物行動学者であることをおもえば当たり前なのだが、「生物の個体の動向の大半は遺伝子の自己戦略にもとづいている」という、ただそのドラマの粗筋だけを主張した。おまけにこの本のメッセージの基本は1960年代の半ばにジョージ・ウィリアムズとウィリアム・ハミルトンが提唱したものだった。しかしドーキンスがこの本で訴えたというイマジネーションは、その後の10年間で教科書にのるほどのメッセージとなったのである。<

>遺伝子はすこぶる利己的であって、自分の延命のためならどんなことでもするというメッセージだ。ドーキンスはこのメッセージを最初につくったのはダーウィンその人だと何度も強調している。ダーウィンの進化論にひそんでいる考え方を自分は新たな表現で取り出しただけなのだというのである。<

そして、反論するものに対してこう言っている。

>「かれらは進化において重要なのは個体でなくて種の利益だと考えたようだが、それはまったく誤っている。ダーウィンはそんなことは何も言っていない」というふうに。<

 >たしかにドーキンスは「生物は遺伝子のためのサバイバル・マシンである」とみなした。生物は遺伝子の乗り物(ヴィークル)にすぎないと言ったのだ。しかしサバイバル・マシンだなんて、まるで生物は遺伝子に操られているだけで何の意志もないクルマのようだ。だからこの機械論的な見方はひどく冷徹に映った。日本版のキャッチフレーズにもこんな文句が刷りこまれた、「われわれは遺伝子という名の利己的な存在を生き残らせるべく盲目的にプログラムされたロボットなのだ」。<

>遺伝子の利己性(gene selfishness)について、ドーキンスの説得力ははなはだ雄弁である。そこにはダーウィンの「最適者生存」の論理が執拗に貫かれている。
 最初は原始地球のスープの中に、偶然にもすこぶる能動的なリプリケーター(自己複製子)が出現したのである。おそらくいくつものリプリケーターが競いあっていたのだろうが、そのなかで最も能動的なリプリケーターが勝ちのこった。それがやがてDNAになった。この出現自体がドーキンスにいわせれば「最初の自然淘汰」であった。<
 当初のリプリケーターはDNA配列ではなかった。RNA配列だった。RNAが自分の自己触媒機能を発揮してDNAの自立を助けた。いわゆる「RNAワールド」の先行だ。やがてその能動的なリプリケーターはDNA配列の完全コピーという仕事に徹するようになる。DNAはDNAの複製をしつづける。ドーキンスにとっては、そこからは一瀉千里だ。<

>嫌な言いまわしだが、ドーキンスはこの本のなかで何度も「遺伝子は不死身だ」とか「遺伝子はダイヤモンドのように永遠だ」と書いている。ただし、コピーという様式において不滅なのである。<

>ドーキンスはしばしば「遺伝子はマスタープログラマーである」とさえ書く。ただしこのプログラマーは自分の生命の維持のための、きわめてエゴイスティックなプログラマーだ。<

>そこでドーキンスは、大半の動物たちの個体には遺伝子の保存という「目的」がそなわっていて、個体はその「目的」のためのサバイバル・マシンになっているのだと結論づけたのだった。<

>この本には以上にかいつまんだ粗略なメッセージのほかに、もう二つのメッセージがかなり乱暴に強調されている。
 ひとつは「ミーム」仮説の提案だ。遺伝子(gene)のスペルにあわせて模倣(ミメーシス)や記憶(メモリー)を“遺伝”しているかと思わせる「ミーム」(meme)というものがありうるのではないかと言い出したのだ。ぼくはさっそくミームを「意伝子」と訳してみたが、ふつうは文化遺伝子だというふうに解釈されている。
 しかし本書で説明されているミームは何のことやらわからないというのがぼくの正直な感想で、仮にミームが文化のリプリケーターだとしても、それが利己的であるのか、そこにDNAやRNAにあたるものがあるのかどうか、またミームがつくるアミノ酸やタンパク質が何をさしているのかは、さっぱりわからない。けれども、本書刊行の直後から“ミーム社会生物学”は爆発的に流行したのだ。遺伝子がサバイバル・マシンを動かしているように、ミームはミーム・マシンとしての人間文化を動かしていると考えられるようになってしまったのである。
 いまのところこの仮説を信じない者はゴマンといるものの、あえてこれをぶっこわす理論の組み立てに向かった者もまだいない。逆にミームを学問にとりこもうという動向はしだいに高まっている。「ミーム理論」(memetics)という領域が登場して、1999年にはケンブリッジ大学のキングス・カレッジでシンポジウムが開催され、そのオーガナイザーとなった認知科学者のロバート・アンジェはシンポジウムをまとめた『ダーウィン文化論』や『電子的ミーム』を出版した。「ミーム・ジャーナル」なんて機関誌もできた。今後、ミーム理論がどこまで成長するかは、佐倉統君あたりに聞いてみないことには、なんとも予測がつきにくい。<

>最初に書いておいたように、ドーキンスの仮説は遺伝子の本質をなんらめぐるものではない。生物、とりわけ動物は利己的に動いているのか、利他的な相互作用ももっているのかという見方に決着をつけるためのものだった。ドーキンスは利己的であれは利他的な動向も派生しうると説いたのだ。だから本当は、ドーキンスの仮説は利己的遺伝子の戦略理論なのではなくて、動物の生き残りのための複合的遺伝戦略をめぐるゲーム仮説にすぎないはずなのだ。
 しかし、いまや生物学の全地図に利己的遺伝子が大手をふるようになっている。このあとどうしようかと、一番当惑しているのはリチャード・ドーキンス自身ではないかとぼくは思っている。<

何の根拠もないSF物語が、今や教科書にも載り、学者の研究対象になっていることが驚きだ。

願わくば、これを読んだ後に、もう一度、四方勢至さんの一連の投稿、「遺伝子の共同体」(59)、「利己的な遺伝子を切開する1」(60)、「利己的な遺伝子を切開する2」(61)を読んでみてほしい。松岡氏の書評を「事実に基づく」根拠ですっきりさせてくれる。
 
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153032 『利己的な遺伝子』に関する違和感 佐藤英幸 07/05/30 PM04

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